青い大地の果てにあるものGA_11_4

「…う~ん…とりあえず、
『腹減った何か食わせろ』
『疲れた、眠い、ベッドまで運べ』
溜まった、ヤルぞ
と、この3つだけ言っておけば問題なくコミュニケーション取れると思う」


意を決して“ギルベルトには言わず1人で”と指定して待ち合わせ。

こっそりと…しかし変な誤解を生んだりしないように密室ではなく…そう思って選んだ食堂のバルコニーでのこと。

非常に構ってくる、自分の方も憎からず思っている相手とのコミュニケーションの取り方について知りたいので、アーサーのギルベルトへの接し方を参考までに教えてもらえないだろうか……恥を忍んでそう尋ねれば、返ってきた答えがいきなりそれである。

ロヴィーノは口に含んだエスプレッソを吹きだしかけて、思い切りむせた。


――大丈夫か?…
と、ハンカチを差し出すアーサーに

――…っ…だいじょ…ぶじゃ……ねぇっ!!」
と、咳き込みながらそれを受け取るロヴィーノ。


いや、確かに2人でいると本当に力が抜けている感がするが、抜けすぎだろうよっ!と、さすがに突っ込むと、アーサーは可愛らしくもきょとんとした顔で言い放った。

「だって…食欲、睡眠欲、性欲は人間の三大欲求だろ
人間である以上、そのあたりは主張しても全然恥ずかしくない

「……いや……恥ずかしい…と、思います…」

何故か敬語。
何故か俯いてしまうロヴィーノ。

なんなんだ、こいつ…と本気で思う。

こんなに可愛い顔してんのに?
性欲なんてあるのが不思議なくらいなあどけなさなのに?

いや、だから、“あのギルベルトが”ハマったのか??

こっちまでムラムラ来そうな気がしてきたが、そんな事になったら殺される。
間違いなくギルベルトに殺されるっ!


ロヴィーノはそこで話の流れを変えようと、もうぼかさず打ち明ける事にした。


「いや、別に恋人とかそういうんじゃなくて……
具体的に言うと、アントーニョなんだけど。
一度酔い潰れて迷惑かけて以来、妙に親切で…色々気にかけて構ってくれるのは良いんだけど、俺、あんま誰かに何かしてもらうの慣れてねえから、ぶっきらぼうな事ばかり言ってたり、それこそひどいと差し出された手を振りほどいて逃げちまったりするから……」

「あ~、トーニョかぁ…」
と、納得したような顔になるアーサー。

目の前にはケーキ。

じ~っと見ているので食べないのかと思っていたら、ようやく自分で手を動かさないと口に入らない事に気づいたらしい。

ハッとしたようにフォークに手を伸ばした。

どれだけ生活の全てをギルベルトに委ねてるんだ、別に俺も食べさせてやっても良いけど…と思うが、それをやったらギルベルトに殺されそうなので、その提案は飲み込んでおく。

そんなロヴィーノの内心の葛藤を当然ながら気にすることなくケーキを頬張るアーサー。
そして言う。

「あいつは放置でも放置しなくても優しい言い方してもキツイ言い方しても、自分が構いたい奴は構うし、構いたくない奴は構わない気がするけどな。
強いて言うなら…嫌ならはっきりきっぱり思い切り拒絶しとかないと、巻き込まれるくらい?」

「いや、でも俺本気で態度悪すぎて。
……あんま他人に好かれた事ねえから、嫌われたくねえ…」

「あ~それはわかる。そのあたりは一緒だな」

「ああ、そうだと思った。
アーサーもなんか甘えたりとか嫌いじゃないのに苦手そうだったから…」

「…ああ。なんていうか…恥ずかしい…甘えんのって……」

恥ずかしそうに頬を染める童顔は本当に愛らしい。

…が、『溜まった、ヤルぞ』発言できるあたりで台無しだ。

「…『溜まった、ヤルぞ』とか言えんのに?」

と、色々気を使っても今さらなので遠慮なく突っ込ませてもらうと、アーサーはやっぱり当たり前に

「それは生理的欲求だから。
甘えたいってのはなんていうか…特別な欲求だから?
セッ○スしたいって言うほうが甘えたいって言うより楽じゃね?
頭撫でて欲しいとか、絶対に恥ずかしくて言えない」

「……」

うん、そのあたりはわからない。
ほんっきでわからない。

何がアーサーの羞恥の琴線なのかが全然読めない。
でも問題はそこじゃない。

「俺は…『溜まった、ヤルぞ』も十分恥ずかしくて言えねえけど…
そもそもが、それ以前にそういう関係じゃねえし?
とりあえずな…上手く出せねえだけで嫌ってるわけじゃねえっていうのをわかってもらえたらそれで良いんだけど……」

そう、とりあえずそれだけでいいのだ。

しかしそれさえも、口を開けば素直ではない可愛げのない言葉が飛び出し、好意的な接触を振り払って無言で逃げだす時点で、伝えるのが難しい。

そう訴えれば、アーサーはコテンとまた首をかしげて考え込んだ。

「じゃ、ロヴィの得意な事とかは?」
「勉強…じゃなければ、料理とか?」

「あ。それいいんじゃないか?
いつも色々気を使ってもらってるから、礼に手料理とか?
てか、俺もたまにはそんな事してみたいな…」

「アーサーも料理得意なのか?」
「いや?全然。桜にキッチンには絶対に入るなって止められる程度?」

「…それ…どういう意味なんだよ」
「…ん~~桜料理上手いし…全然できない俺が居ても邪魔だから?」

と、こころもちショボンと肩を落とす様子は愛らしくも憐憫の情をそそる。

そして名案。

「じゃ、俺と一緒に作るか?
サプライズってことで、ギルにもアントーニョにも内緒で」

「いいのかっ?!」
「おうっ!」

とたんにキラキラとした目で見あげてくるのは本当に可愛い。

普段は誰かに無条件に頼られる事がないというのもあって、気分も良い。

…が、それが非常に無謀な提案だった事をロヴィーノはそう遠くない未来に知ることになる。

しかし賽は投げられた。

ロヴィーノとアーサーの秘密の料理教室はここに開催が決定してしまったのである。


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