とアントーニョが自分のグラスにシェリー酒を注ぎながらついでにと聞くと、
「ワイン。白な」
とロヴィーノが言う。
その言葉に
「酒...飲まないんじゃなかったん?」
と、アントーニョがつっこむと、ロヴィーノは
「飲まないと何言われるかわかんねえからな」
と、むすりと答えた。
こうして数十分後...
「だいたいなあ、てめえ俺様すぎだろうよっ!
こっちがどんだけそっちに合わせてると思ってんだよっ!
情報だってこっちは分析結果、研究成果逐一そっちに上げてんのに、そっちからはこちらが聞いた情報しか上がってこねえし。
俺達の事嫌いなんだろっ?そうなんだろっ?!」
アントーニョの襟首をつかんで、絡んでいるロヴィーノ。
完全に目が据わっている。
「俺だってな…爺の七光り七光り言われて好き好んでトップ張ってんじゃねえやっ!
あんなヘタレでもフェリはこの世で唯一の身内で、俺は兄貴なんだよっ!!
あいつがなんとか挫折しねえように、フォローしてやるしかねえだろっ!!」
「…自分……もしかして酒弱いん?」
と、困った顔のアントーニョの問いには当然返事はない。
「...ったく...とりあえずこれ飲み?」
酒に誘った事を思い切り後悔しながら、すこしでも酔いをさまさせようと、アントーニョはロヴィーノに水の入ったグラスを渡す。
「...酒飲めって言ったのは...お前だろうよ…酒飲ませろ…」
コップに鼻をよせて中身を確認したロヴィーノが言うのに、アントーニョはがっくりと肩を落とした。
「飲めへんのに飲まんとき。
ああ、それで気がすむなら謝ったるから。
堪忍!飲めへんのに飲まんといて、頼むわ」
いつも人を人とも思わないような傲慢な奴だと思っていたブレイン本部長の意外な一面に複雑な表情を浮かべるアントーニョ。
「…俺…てめえのこと大嫌いだ…」
「ああ、そうなん」
アントーニョはあきらめて相槌を打つ。
「そうだ。俺だってなぁ、怖えの嫌いだけど、それでも出来るなら最前線で戦いたかった。
俺は兄貴で…親もいなくて、唯一の身内の爺が死んだらあいつの保護者なんだからな…。
怖がって嫌がって泣く弟をなだめすかして戦地に送り出して研究室なんかにこもっていたくなんてねえよ、ちくしょう……」
「………」
「おめえら、現場に出てて何が必要かとか何が欲しいとかわかってんのに全然教えてくんねえじゃねえかっ。
何がブレインに負担かけねえだよっ、ふざけんなっ。
俺らにできる唯一の…後方支援までとりあげて何か楽しいんだよっ、こんちくしょうめっ!」
「...すまん」
正直、現場を駒のように動かすのが楽しいだけで、下々の要求など興味ない人種かと思っていた。
一応(?)戦闘に貢献したいとは思っていたのか...。
「あ~…勘違いしとったみたいで…悪かった」
「………」
「おいっ!無視すんなやっ!」
タンっ!とグラスをおいてロヴィーノの方をふりむいたアントーニョは目を丸くした。
「寝とるん…か?」
ロヴィーノはカウンターにつっぷしたまま寝息をたてていた。
「言いたい事だけ言い逃げかい……」
アントーニョは前を向き直って一気にグラスの中身をあける。
「どないするん、これ。」
チラと隣を盗み見てため息をつくアントーニョ。
「起きやっ!」
グニ~っとその頬をひっぱってみるが、起きない。
酒が弱いというのもあるが、やっぱり疲れてるんだろうなぁ...と、その青白い顔を見てアントーニョは思う。
ここ2ヶ月半くらいでそれまでの守勢から攻勢に方向転換する事になってからブレインもフリーダムも忙しい。
フリーダムは敵の基地と思われる場所を片っ端から探り、情報を集め、ブレインはそこから上がってくる情報及びジャスティスが倒した後に回収した敵を元に敵の分析をし、戦闘時の服の素材、敵の基地に乗り込む事になった時に必要になると思われる物資、その他諸々の研究に余念がない。
さらに今回共鳴率を上げるために日々ジュエルの研究もあらためてなされているらしい。
フリーダムの探索の仕事はさすがにボスのアントーニョが直々に赴くという事はないが、ブレインの方はボスである前に科学者でもあるロヴィーノが直々に研究に携わっている。
通常業務外の仕事が多くなるということは、本人も寝る間がないのだろう。
そしてそれは以前からの事ではあるが、アントーニョ自身もそうだったが、かなり若くして部内トップに上り詰めた若者に対しての周りの目は決して暖かいものではない。
年功序列であったなら自分よりも上であったはずのベテラン勢から日々与えられるプレッシャー。
油断すれば内部から足をすくわれる。
それでも力が上下のパラメータのフリーダムではそれを見せつけさえすれば追い落とされる事はない。
しかしそういう単純なものではないブレインではどうだったのだろうか...
どちらにしても一応上に立つものなのだ。
こんな状態を部内の者に見せるわけにもいくまい。
「しゃあないなぁ…」
アントーニョはロヴィーノを肩に抱え上げると他人の目につかないようにそっと庭にでて、外から居住区の自分の部屋にむかった。
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