ヤンデレパニック―私のお兄ちゃん【後編】_11

ギルベルトがそこまで言うと白鳥が

冗談じゃないわっ!!

と声をあらげた。

 「違いますか?」

それに対してギルベルトがキツい目を向けると、その視線に少したじろいで、それでも

「違うわよっ!」
と答える。


「しかし…そちらに来て頂いている劇の小道具の係の方が、模造品の短剣の方は白鳥さんが確かに稽古に使っていたと言って劇直前に持って来たと証言していますが?」

「それはそうよっ!悪い?!私はロミオ役ですものっ。
仮死状態になったジュリエットを見てロミオが短剣で自殺するシーンがあるのよっ!
稽古に使っていても不自然じゃないでしょっ!
でもそれが殺人現場で使われたなんて証拠はどこにもないじゃない!全部でたらめよっ」

ワ~っとまくしたてる白鳥姫乃に、ギルベルトは冷ややかな視線を向けた。


「立証か、いいでしょう。
まずフランシス、ロヴィーノ、有栖がそれぞれスタンガンで気絶させられた後はそれぞれの体に残っています。
犯人が短剣で大動脈を切ろうとしていた証拠は有栖の首にある擦ったような傷。
その後有栖が意識を取り戻してもう一度気絶させられたのは、他と違ってスタンガンの跡が2カ所残ってている事でわかります」


「でも…あの短剣を使ったなんて証拠はないわっ!」

その言葉にギルベルトは指紋採取を終えてビニールに入った短剣を手に取った。


指紋がついてます

「それがなに?演劇部全員くらいのはついてるでしょうし、私を始めとして劇の参加者のも全員ついてるわよっ!当たり前じゃないっ!練習でも使ってるんだからっ!」

その言葉にギルベルトは氷のような冷ややかな口調で言った。


誰があなたのだと言いました?
犯人だったらよほどの低能じゃない限り、犯行時には指紋がつかないように手袋くらいするのが普通ですよ。
問題は…”演劇部でもなければ学校の生徒ですらない”ロヴィーノの指紋これにべったりとね…ついてることなんですよ。
犯人が握らせたんでもなければつきませんよ。
ま、これをきちんと鑑定すればこすった時についた有栖の首の皮膚も付着していることが判明すると思いますが。」

ギルベルトの言葉に白鳥姫乃は真っ青になってぺたりとその場に座り込んだ。


言葉もなく茫然自失の白鳥姫乃にギルベルトは容赦なく追い打ちをかける。

「さらに言うなら…人は首を絞められれば苦しさから再度目を覚ますでしょうし、当然首を絞めている手を外そうとするのが普通です。
ロヴィーノが首に触れていたのは素手なので、もし有栖が生きている状態で絞め殺したならロヴィーノの手には有栖の指の跡が残っているはずなのに、ないんですよ、これが。
でもってですね…」

そこまで言ってギルベルトはロミオを演じた時のまま手袋をつけている姫乃の手首をつかんで強引にその手袋をはずした。

「その有栖がかきむしった跡が、何故かここにあるわけです。」
そこにはくっきりと赤いミミズ腫れが残っている。



「どうせ…白鳥有栖が亡くなれば、もう二度と描かれなくなる彼女の作品の価値があがって金になるとかそんな下らない理由ですか」
ギルベルトはそう言い捨てて、くるりとトーリスを振り返った。


「個人的にはこういう愚劣な馬鹿は一度死んで欲しいところですが、真相を突き止めた後は法の手に委ねるというのが今回ご協力願ったサディク警視との約束なので。
警察の方で煮るなり焼くなり好きにして下さい」

と、ここまでは厳しい表情で言った後、ギルベルトは少し苦笑して

「できれば…事件暴いたのはトーリスさんということにして、俺の名を出さないで頂けるとさらにありがたいんですが…」
と、付け足す。


「いえ…そんな。前回に続いて本当に一瞬でここまでの状況認識力は脱帽致します。
俺がといってもおそらく信じてもらえませんよ。嘘をつくなとサディク警視に怒られます」
ギルベルトの言葉にトーリスもそう言って苦笑した。



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