ヤンデレパニック―私のお兄ちゃん【後編】_5

結局女子高生達に押し切られる形で、アーサーは

「そだ、ちょっとだけドレス借りちゃいましょう!」

と言う女子高生達の言葉で、アントーニョと共に劇用の道具が一式管理されている演劇部の部室へ引っ張られて行く。


「殿下細いから横のサイズは合うはずです♪
今年のジュリエットは165cmある子だから丈もまあ許容の範囲だと思いますので着て下さい~♪」
と有無を言わさず衣装を押し付けられる。

もちろん…アントーニョが着せる気満々なので、逃亡はできない。


「ギルちゃんかて高校の学祭のメイド喫茶とかでメイドしたことあるんやで~。
お祭りでお祭り騒ぎにのらへんなんて、普通の高校生やったらありえへんわ」

と言われれば、なまじ交友関係が狭いだけに、もしかして頑なに拒む自分のほうがおかしいのかも…と、思ってしまうのがアーサーだ。


「べ、別にたかだか祭りの余興くらいっ…」

赤くなって口をとがらせると、

「そうやんなぁ。そんなことで真面目に拒否ったりするような事せえへんわな」
と、さも当然のようにアントーニョがうなづく。

こうして結局乗せられて着替えて、ウィッグをかぶればジュリエットの出来上がりだ。



制服はたたんでいったん、小道具の側に。
その時ふと小道具の短剣が目につく。

「あ、どうせならこれも持って行こか。予備と二本あるみたいやし♪」
と、アントーニョはラストで使う短剣を1本手に取った。





「きゃああ~~閣下と殿下のロミジュリっ!!」

隣の華道部に戻るともう大騒ぎである。
エリザを始めとしてうっとりとする一同。

華道部のいけた花をバックに二人を挟んで写真を撮るエリザ。

そんな集団を通りがかりの外部の…何も知らない男子学生とかが見て写真に収めようとすると、

勝手に撮らないで下さいっ!
と、ザザっと女子高生達は壁を作って阻止する。

そのあたりのプライバシーの意識はことの外しっかりしているらしい。



コスプレしてたって本人の了承なしに取るなんて絶対にNGっ」

見たい人にはあとで私が見せてあげるからね、と、人差し指を立ててそういうエリザに、お嬢様たちは、は~い♪と声を揃えてお返事する。


自分はいいのか?と視線で尋ねたアーサーにエリザはにっこりと

「一応ギルの従姉妹って事で身元もはっきりしてるし、流出は絶対にさせないからね♪
個人と周りで見て萌えるだけだから安心してっ」
と、安心していいのかわからない返事を寄越した。



それのどこに安心できる要素があるんだ?とさらに聞こうとしたらアントーニョが

「あ、でもそれ親分にも送ったって。本人やし。」
と、嬉しそうに言ったあたりで、ああこいつもダメだと、アーサーはがっくり肩を落とした。


そう言えばアントーニョはフランシスと共に以前オンラインゲームでアーサーに似せた♀キャラを作成したという前科があったんだった…と内心頭を抱える。



一方で空気になりかけて廊下へ退避したロヴィーノが、普段ならこんな時に一緒にいてくれるギルベルトを思い浮かべ、電話でもかけようかと思った瞬間、何故かギルベルトではなく、フランシスからメールが来た。


今ちょっと屋上いるんだけど、こっちきてくれる?

目的の人物ではないものの、まあホッとした。
ようやくこの場違いさ満載の空間から退出できる。


ロヴィーノは側にいた下級生らしき子にフランシスに呼ばれているから席を外す旨の伝言をアントーニョに伝えてもらえるように頼んで屋上へ急いだ。


人でにぎわう廊下を駆け抜け、屋上へ続く階段へ。

下方向に行く人は多いが、何もない屋上へ行こうという人間はいないので、すっきり人のいない階段をかけあがる。
階段を上がりきると屋上のドアはあいていて、目前には青空が広がっていた。


一歩足を踏み入れると、左側には大きなマリア像。
右側には何もない。


「ヒゲ?」
声をかけるが返事がない。


しかたなしに外に出てグルリと階段の裏側に回り込んだロヴィーノの目に二つの人影が入った瞬間、急にすごい衝撃が来て、ロヴィーノは意識を手放した。




「殿下、ロヴィーノ様から伝言なんですけど…」

もう従うまでは放してくれない勢いのエリザの注文に従ってアントーニョとは別々に花を抱えて撮っていたアーサーがその花を華道部に返していると、ロヴィーノの伝言を下級生の一人が伝えにきた。

伝言を聞いたアーサーはちょっと天井を見上げて考え込む。


一応…例の電波には魔王の手先扱いされている以上、ロヴィーノもあまり一人でいるのは危険な可能性がないだろうか…。

そんな事を思いついたアーサーは、

「えっとな、俺ももすこしだけ席を外すんで、聞かれたらここで待っててもらうようにアントーニョに伝えておいて下さい」

女子高生に囲まれているアントーニョにチラリと目を向けると、コソっとそう言って、たたんでおいてある自分の制服に短剣を置いて教室を抜け出した。

ドレスの裾を翻して廊下を疾走するジュリエット…目立ちまくりである。


道行く人が歓声を上げて振り返って行くのにも構わず屋上への階段をかけあがり、開いたドアから外へ出た瞬間…アーサーもまた意識を失った。




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