女子校の学園祭…それに男子高校生2人で行くのは日頃女の子に囲まれまくっているフランでもなかなか勇気がいる。
それでも平和な生活の為にとフランとギルベルトは女の園に足を踏み入れた。
美しい細工の門をくぐると校庭までは遊歩道のようになっていて、道の左右にはバラのアーチ。
途中には座って休める様に藤棚の下に優美なベンチまである。
校舎に行く途中にある、こちらも優美な佇まいを見せるチャペルの前では生徒達がパンフレットを配っている。
二人もそれを一部もらうと、目を通した。
二人が人ごみの中をプラプラ歩いていると、少女達の黄色いおしゃべりが聞こえてくる。
「ね、さっき私エリザ先輩にお会いしちゃった♪」
「あ~、なんだか素敵な方連れてらしたわねぇ。」
「うんうん。すごく精悍な感じの…そう、黒衣の君?
その隣の綺麗な金色の髪の方もなんか儚い感じで素敵だったわ。
もう一人のちょっと線の細い茶色の髪の綺麗な方と黒衣の君が左右からお守りしているみたいな感じで…耽美で萌えた~」
「ええ、エリザ先輩も凛々しくていらっしゃるから、エリザ先輩も含めて三銃士?」
「あ、それ素敵~。今度描こうかな~。」
「あ、描いたら読ませて♪」
…なんだかすごい会話である。
どうやらあとから来たアントーニョ達はすでにエリザと合流しているらしい。
二人は苦笑して自分達も急ぐか、と、エリザの教室に向かって足を早めて歩を進める。
こうして向かった教室の前の廊下で下級生に囲まれているエリザを見つけると、ギルベルトは
「エリザっ!」
と声をかけるが、女子高生達のキャイキャイ高い声にかき消される。
かといって女子高生を押しのけていくと、下手すると触れてしまって痴漢扱いされかねない。
困っているギルベルトを見つけたのは、ロヴィーノだった。
「遅えよ、ギル。お前ら何してたんだよ?」
言って、エリザの隣からギルベルトに声をかけつつ
「ちょっと知人を見つけたんで、失礼」
と、にこやかに周りに声をかけると、女子高生に道を作ってもらってギルベルトの所にまでくる。
「猫かぶり中か」
そのいつものぶっきらぼうな態度を押し込め礼儀正しい態度を見せるロヴィーノに、ギルベルトがからかうように言うと、ロヴィーノはムスッと
「ベッラに無礼な態度みせるわけにいかねえだろ。
もとい…女子高生の集団を敵に回したら怖え」
と、眉を寄せる。
「まあ確かに…。女は怖え」
ギルベルトがそれに同意しつつ、少し集団から距離を取るようにうながすと、ロヴィーノもそれについてくる。
そして、集団から離れて声が聞こえやすい位置までくると、肩をすくめた。
「さっきな、トーニョ達といた時にその電波が来て、それで判明したんだけどな、聖星の学生じゃないぞ、あいつ。アーサーいわく北海道で執筆してる今有名な女流画家なんだと」
「へ?」
「で、それからエリザさんに確認したら、制服の出処もわかった。
あいつの母親の再婚相手の娘がこの学校の3年なんだと。
で、たぶんそいつの制服をがめたんだろうな。
ま、今のところ聞き出せたのはそのくらいだ。
再婚相手の娘はダンスの発表中らしいから体育館にでも行ってみたらどうだ」
「お前はどうするんだ?」
ギルベルトが聞いた丁度その時、
「ロヴィーノ様~、ロヴィーノ様も記念写真お願いしますぅ~」
という女子高生の黄色い声。
その声にロヴィーノは振り向いて
「ちょっとまって下さい」
と、返すと、またギルベルトたちを振り返って、
「ワリイ。もう少し聞きだせる事もあるかもしれねえし、とりあえずお前達で体育館行ってきたら合流な?」
と、言うと、また集団の中に戻っていった。
「お兄さんもあっちがいいなぁ…」
それを羨ましげに見送るフランシス。
「あぁ?お前の事だろうがっ!
自分のケツくらい自分で拭けっ!」
と、それにはさすがにギルベルトも眉をひそめる。
もう…この女子校の中にいるという事自体が居た堪れないこの男は、いつもより沸点が低くなっていた。
それを敏感に感じ取ったフランシスは、ごめんね~とヘラリと笑うと、大人しくギルベルトについて体育館に急いだ。
現在10時半。
11時までダンス発表会があるはずだから、待っていれば話くらいは聞けるかもしれない。
「あの~、すみません、白鳥さんてどの人ですか?」
体育館に駆け込んで舞台のそでで待つ事20分。
出てきたレオタードの女子高生にヘラっと声をかけるが…当然…警戒される。
まあお嬢様学校だ。男子高生がいきなり声をかけてきたら、少し引く。
困ったなぁ…とギルベルトは俯くが、そこでフランシスの出番だ。
「あのね、お兄さんエリザちゃんの友達のフランシス・ボヌフォワって言うんだけどさ。
結局時間取れなくて役にたてなかったんだけど、母親がデザイナーだからエリザちゃんから劇に使う衣装とかの相談受けててね、今日はどうなったかな~って気になっちゃって学祭お邪魔しちゃったんだけどね」
「え?ボヌフォワって…もしかして?」
「えっと、フランソワーズ・ボヌフォワって知ってる?」
「きゃぁあああ!!!知ってますっ!!すごく好きっ!!!」
と、いきなり他の女子高生達も巻き込んで盛り上がる。
「えっと…申し分けないんだが白鳥さんてどの子?少し聞きたい事があって…」
そんな中の一人にギルベルトが改めて聞くと、今度は警戒心が解けたのか、普通に答えてくれる。
「あ、白鳥先輩ですか~。さっきまでいらしたんですけど…どこでしょう…」
「午後から高等部でロミオとジュリエットでロミオやるから大急ぎで着替えて食事かもですね~」
が、どうやら見当たらないらしい。
こうして女子高生達に別れを告げて、体育館を出ようとしたその時、
「あ~フランさま♪アリスに会いにきてくれたんですねっ♪
やっとアリスの事思い出してくれました?」
と、フランシスは後ろから抱きつかれる。
出た~!!!
「あ~の~ね~、とりあえず…なんでここの生徒でもないのに聖星の制服着てるかから説明してくれる?」
くるりと振り向いて言うフランシスにアリスはにっこり
「だって可愛いでしょ♪アリスにぴったりだしっ。
ここの制服着てると他の人も優しくなるしね♪」
と悪びれずに言う。
そのおかげでお兄さんはこんなところまで…と、内心ため息をつくフラン。
そんなフランシスに構わずアリスはにっこり
「そんな事よりね、愛を語り合うのにぴったりの場所があるのよ、行きましょ♪」
とフランシスの腕を引っ張って行く。
「ちょ、なんでお兄さんがっ!」
あわてて腕を振りほどこうとするフランシスだが、アリスは腕はがっちり掴んだままピタっと足を止め
「えと…一度だけ。そこでね、一度だけ前世で言ってくれたみたいにアリスの事好きだって言って?
現世では…魔王の呪いが強すぎて二人は幸せになれないらしいの。
だから…来世まで待つから」
と少し潤んだ目でフランシスを見上げた。
「アリスは絶対に忘れない。生まれ変わったら絶対にまた探し出して会いにくるからっ!」
ホロリと大きな目から涙がこぼれ落ちる。
「…おい、どうすんだ?」
とりあえず今は諦めてくれるらしいとわかってホッとしつつも、フランシスの意向を確認するギルベルト。
フランシスは迷った…が、ここで強硬な態度に出て話をこじらせるよりは、それで気が済んで諦めてくれるなら…と、しかたなしについて行く事にした。
飽くまで穏便に済ませたい派なのだ。
「んじゃ、俺様トーニョ達に合流してそれ伝えておくわ」
と、ギルベルトはそこで分かれてアントーニョ達と合流することにした。
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