ヤンデレパニック―私のお兄ちゃん【後編】_2

学園祭と言うこともあって、普段は女子ばかりな女子校でも、今日は思ったより男子高生の姿も多い。

そんな中で所在なく立つ男子高校生一人。



「遅えぞ、こんちくしょう!!」

タクシーでたどり着いたアントーニョとアーサーが姿を見せると、ロヴィーノはホッとしたように悪態をついた。

さすがに他に男が多かったとしても女子校の前で一人というのは気まずかったらしい。


「あれ?ギルちゃんとフランは?」

二人も一緒に待ち合わせのはずなので、首をかしげるアントーニョ。

「あいつら一足先にエリザさんのとこ行ってるって。例の件があるからよ」

確かに…今回はそれが目的だ。




「フランがさ、写メ取ったらしいから、それ見せてちゃっちゃと解決して、ゆっくり名門女子校の学祭を満喫しようと……」

というロヴィの説明が終わらないうちに、なんと、そこに噂をすれば…

お兄ちゃんっ!アリスに会いにきてくれたのねっ!

いきなり現れる電波。



「トーニョ…この子?」
視線を向けるアーサーにアントーニョはため息で答える。

「親分は自分みたいな妹持った覚えはないわ」
きっぱり拒絶するアントーニョ。


アリスの視線には先日争ったロヴィーノしか映ってないらしくアーサーは完全スルーで、隣にいるロヴィーノをドン!と突き飛ばした。



その拍子に有栖の小さなバッグの口が開くが、それにも構わず

お兄ちゃん騙されてる!こんな奴に近づかないでっ!魔王に呪い殺されちゃうよっ!
と、叫ぶアリス。



「相変わらずの電波っぷりだな」
と、アントーニョとアーサーがいてくれる事もあって、今日は若干冷静なロヴィーノ。

アントーニョが怒鳴ろうとした時、気付いたアーサーがかけよってきて、アントーニョとアリスの間に割って入った。



「大丈夫っ。
トーニョにはちゃんと変な呪いがかからないよう日々俺がまじないをしてるからな。
それより…トーニョの事何も知らないのに妹なんて名乗らないでくれ。失礼だ。」
真剣な顔で返すアーサー。


アントーニョ自身が当たり前に受け入れて肩に手を置いている相手の乱入に、アリスは少し引きながら
「し、知らなくないもん…」
と口ごもる。


知るわけないっ!
トーニョにはちゃんと名前も書いてあるし、全部丸ごと俺のなんだからな!
俺の許可なくトーニョの事知ってるわけない!」


あまりにきっぱりとした意味不明の言葉に、アリスはウッと口ごもった後に、いきなりクルリと反転して駆け出して行った。

圧勝するアーサーにぱちぱちと拍手をするアントーニョとロヴィーノ。



「さすが生徒会長。おかしな輩の撃退法も完璧だな」

感心するロヴィーノの言葉にアーサーは赤くなって口ごもる。

「…いや…まあ……えっと……」

「あーちゃんもようやっとわかってくれたみたいやな。」
と、対照的に満足気なアントーニョ。


――あー…あれマジで言ってたのか…。

と、そこでようやく納得するロヴィーノ。

そう言えばアーサーは魔法とかまじないとか、そんな類のモノが好きで魔術同好会とかにも顔を出していた気がする。

納得すると同時に空気を読むロヴィーノは、さらりと話題を変えた。


「でもさ、名前とか書いてあるってなんだよ?」
と、聞くと、動揺中のアーサーの代わりにアントーニョが、

「あ、それな。」
と、シャツの中からチェーンを引っ張りだした。

そこに付いているのは小さな1cm×2cmくらいのペンダントヘッド。
Arthur Kirklandの文字が刻まれている。

「あーちゃんの方には親分の名前書いてあるんやで~」
と嬉しそうに言うアントーニョに、ロヴィーノは大きく肩を落とした。

もう…リア充爆発しやがれ

普段ならそこでアーサーが照れて何かしら言ってくるところだが、何時まで経ってもツッコミが入ってこないことに、二人して不思議に思って振り向くと、一人難しい顔でうなっているアーサー。

「あーちゃん…どないしたん?」
ポンポンと肩を叩くアントーニョに、アーサーはハッとしたように顔をあげた。

「思い出したっ!」
「「何を??」」

突然叫ぶアーサーに二人して聞き返すと、

「あれって白鳥有栖だよな?」
と、逆に聞き返された。

「は?知っとるん?」

アーサーには彼女のフルネームまでは言ってないはずと思ってさらに聞き返すアントーニョに、アーサーは思いがけない事実を告げる。

「今話題の女流画家だ。100年に一人の天才と言われていて、その作品の価値が今すごく上がってるんだぞ。確か今俺達と同じ年だとか…」

「そんな…すごい奴なのか…」
呆然とするロヴィーノ。

一方でアントーニョは
「あんな電波にも取り柄はあるんやなぁ。まあ…迷惑なのは変わらんけど」
と淡々と言う。

「まあ…何故ここの制服着てたのかは知らないが、確か普段北海道で執筆活動してるって話だから、ここの生徒じゃないことは確かだぞ?」

「それ…フランに教えてやろうぜ。」
「せやな。それ伝えて解決の目処がついたら楽しくデートやな、あーちゃん」


こうして3人はギルベルトが向かったというエリザの教室へと向かった。


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