ヤンデレパニック―私のお兄ちゃん【前編】_8

しかし当然これで追撃が終わるわけはなく…
なんと翌朝には改札にゲームの中のキャラによく似たアリスの姿。

もう…見なかったふりをしよう…。

フランシスは他人のふりで改札を駆け抜けるが、

「フラン様っ、アリス置いて行っちゃ嫌ですよ~」
と言う声と共にパタパタと足音が追ってくる。

聞かないふり、聞かないふり…と、さらにダッシュするフランシスの後ろから

「フランシス・ボヌフォワ様っ!結婚してくれるって言ったくせに逃げないで下さいっ!!
と絶叫。

うっあああ~~~~

「いつ言ったの?!そんな事っ!!!」
思わず振り返って叫んでしまってから、ハッと気付くが後のまつり。

思いっきり周りの注目を浴びながら、ご機嫌な様子で白鳥有栖が駆け寄ってきた。


ああ…しまった…と思った瞬間、ついでに電車のドアも目の前で無情に閉まる。

がっくりと息を吐き出すフランシスの前まで来て自分よりかなり背の高いフランシスを見上げると、アリスはにっこりと可愛らしい笑顔を浮かべて言った。

「えとね…前世で♪
生まれ変わったら結婚しようねって森の泉の前で誓い合ったじゃないですか♪」

ないですかって…そんなもん知りません…と、心の中でつぶやくフランシス。

誰か…助けてくれ…。


「もう…前世はとにかく…君も学校でしょ?高校生なんだから学校行こうよ…」
とにかく逃げたい一心で言うフランシスにもアリスは

「今、学校は学園祭、流星祭の準備で自由登校なのです♪
だからフランさまの学校まで一緒に行けます♪」

や、やめてくれ~!!!心の中で絶叫するフランシス。

「だめっ!絶対にだめっ!」
「どうしてです?アリス、フラン様のお友達とかにもちゃんと挨拶したいですし…」
「なんで挨拶?!赤の他人でしょっ!!」
「だって恋人同士ですしぃ」

「だ~か~ら~!俺実はゲイでねっ俺にはちゃんと超可愛い男の恋人がいるのっ!
君に言いよられても困るし迷惑なのっ!」

日本語通じないのがこんなに怖いものだとは思わなかった…。
もう10月だというのに汗だくになるフランシス。
とりあえずこれで引いてくれるだろうと、やけくそになって言ったが、返ってきた答えは…

「フラン様っ、騙されてますっ!
その男はアリスとフラン様の仲を引き裂くために魔王が送り込んだ魔王の手先なんですっ!
そんなのといたらフラン様呪われて死んじゃいますよっ」


これ…今日学校行くのあきらめるしか…。
間違ってもこんなのを連れて学校には行けない…。

しかし…これにつきまとわれたまま家に帰る事もできないわけで…。
フランシスは迷わず次の上り電車に飛び乗った。

目的地は新宿。
人ごみで撒こうと言う作戦だ。


そして新宿に着くとフランシスは猛ダッシュ。
人生でこれほど真剣に走った事はなかったのではないだろうか…。

「フラン様っ!!私から離れちゃだめぇ!!魔王の手先に殺されちゃいますぅ!!!

もう…後ろから追ってくる絶叫も無視っ!
周りの視線もこの際見ないふり。
見事な手の振りでオリンピック選手も真っ青な走りを見せるフランシス。

もう…ネットゲーは二度とやらないっ!と心に固く、この一瞬だけは真剣に誓っている。
電波怖い、電波怖い電波怖いっ!!!

とりあえず撒いたっ!

ゼーゼー荒い息を吐いてフランシスは携帯を取り出し、ガチャガチャとアドレス帳をひたすらめくる。

これを打開できそうな人材…。
誰でもいいっ!助けてくれる奴なら誰でもっ!

いつもなら真っ先にかけるギルベルトは、この件については誰より無理そうだ。
電波に…というより、女性問題は誰よりも無理だ。

アントーニョは助ける気はない…というより、関わってアーサーを巻き込むくらいならフランシスを簀巻きにしてアリスに差し出すくらいしかねない。
もちろん、そのアーサーにかけたりした日にはアントーニョに殺される。

ああ、男友達は全滅。

誰かこの手の事に冷静に対処できそうな奴はいないものだろうか…。
そもそも悪友とアーサー以外に男の友人がいないんじゃないだろうか、自分。

そう思った瞬間、もう一人、最近アーサーを通してよく顔を合わせるようになった男の顔が浮かんだ。

彼に言ってどうなるというわけじゃないが、少なくとも悪友二人よりは建設的な意見が聞けそうだ。

そう思った瞬間、フランシスは電話をかけていた。
コール音2回で通じる電話。

『もしもし?こんな時間になんだよ』
と不機嫌に出るロヴィーノ。

まあもっともな返答だ。
あちらとて、通学途中だろう。

「うん、ごめんね、ちょっと相談したいことが…」
と、フランシスが切り出した瞬間、近くに人の気配と荒い息。

「その電話…魔王の手下じゃないですよねっ…フラン様…」

うっあああ~~~~!!!!!ごめんっ!ロヴィ、またあとでっ!!!!!」

体を折り曲げて膝に手を当てて呼吸も整わない状態でそう言うアリスの声に、フランシスは悲鳴をあげて逃げ出した。


「あ、フランシス様っ!!!」
電話を切って、追ってくるアリスをもちろん振りきって、フランシスは新宿中を駆け回る。
本気で…ホラー映画の主人公にでもなった気分だ…。





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