月獣の交わり3

ギルとの共同生活が始まったのは秋の終わりで、冬ごもりのためとギルは実によく立ち働いていた。
自分1人で建てたという小さな家は、しかし室内から行ける食べ物の貯蔵小屋や大きな地下室があって、そこには肉が主食だと言うギルが冬中に食べる干し肉やジャガイモなどの日持ちする野菜、果物などが所狭しと並んでいる。

――今年は2人分だからな
と、おそらくいつもの倍以上の食料をせっせせっせとそこに運びこむのは大変なように思えたが、その表情を見ると随分と明るい。

アーサーもアーサーで、今までごく潰しと嫌な顔しかされてこなかった自分がそこにいる事が嬉しいと全身で現わされば悪い気はしない…というか、嬉しい気分になってくる。

怪我はとっくに治っていたが、ギルはおそらく一族が滅ぼされた時の事があるからだろう、決してアーサーを1人で外に出歩かせる事はしなかったし、2人でいても家からあまり離れた所には行かせたがらなかった。

動物を狩ったり魚を獲ったりと家を離れる時は自分だけで行き、その時はもちろん家にはしっかり鍵をかけた上で、
――俺以外の奴がきたら、とりあえずここに隠れてろよ?
と、ベッドの横、毛皮の敷物の下に入口を隠した地下室へ逃げるように念を押す。

そんな状態なのでアーサーはギルがいない間はもっぱら植物で色とりどりに染めた糸で飾り紐を編んだり、繕いものをしたりして過ごした。

そうしているうちに冬がくる。
山の中にあるこの家は冬の間は雪に閉ざされるが、食べ物はたっぷりあるし、薪だって秋の間にギルが貯蔵小屋の一つにいっぱい集めたので家の中は温かい。

それでも少し肌寒いなと、そんな素振りを見せた日には、ギルは狼の姿に戻ってアーサーを毛皮で包んでくれる。
それは温かい上に肌触りも良くて、アーサーのお気に入りになった。

そう言えば普通に考えれば狼になったり半獣人になったり人間の形を取ったりと、明らかに人間ではない人外の生き物であるギルに嫌悪や恐怖を感じた事はないあたりが、今もその能力があるかどうかは別にして、確かに自分にもそういう血は流れているのかもしれないな…と、アーサーは今更ながらに思った。

静かで穏やかな冬の日々…

…静かだな…と眠り際にアーサーが呟くと、ぎゅうっとアーサーを抱き枕のように抱えて眠りかけていたギルは――来年はきっと子どもがいっぱいで賑やかだ…と、言って眠りに落ちる。

そのあたりは…どう考えてもあり得ないと思うし、賛同はできないわけなのだが……
それでもこれほどお腹も心も温かさも満たされた生活はした事がないし、同居人のギルがやたらとスンスンと匂いを嗅いで回るのとペロペロ舐めまわすのに目をつぶれば、まあ幸せな生活と言えるし、良いか…と思う。

静かな静かな冬がゆっくりと過ぎて行く。
そうして新しい息吹生まれる春へと時は流れて行った。



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