ストーカーとは何をされるかではなく誰にされるかである_6(完)

…頼む……ちゃんと無事でいてくれよ…

タクシーに飛び乗って1万円札を運転手に渡して急いでくれるように頼むと、ギルベルトは頭を抱えてマンションに着くのを待つ。


普段の冷静さなど吹っ飛んで、脳内では今まで見てきた電車で痴漢にあってたり映画での変質者に連れ去られようとしていたアーサーの姿がクルクル回った。

あ…そうだ…鍵だけじゃなくチェーンもかけておいた方が…いや…万が一窓から侵入されたらチェーンかかってると逃げられないか?
などなど、もう色々考えすぎて頭が回らない。

マンションに到着すると釣りは要らないからとタクシーを飛び降り、丁度来たエレベータに飛び乗ると、帰り際にもらっていた合い鍵を出して、それでも一応…と、チャイムを鳴らしたが出ないので、鍵を開けて中に入った。

暗い部屋。
啜り泣く声に全身凍りついた。
まさか、何かっ?!!
と、中に足を踏み入れると、リビングでペタンと座りこんだアーサーは驚いたような顔でギルベルトを見あげた。

「…何か…あったか?
何か変な事とかされてねえよな?」

見たところ着衣の乱れとかもなく怪我をしているような様子もない事にホッとしながら、ギルベルトは自分もその場に膝を着くと、ソッとその細い身体を抱き寄せた。
そして大きくため息をつく。

「…心配した……。
すっげえ心配した……」
もう他に言葉が出ない。

そんなギルベルトに対してアーサーはおずおずと自分もギルベルトのシャツの胸元をつかんで、ぽつりとつぶやく。

「…怒らせちゃったかと思った……」
「は?」
「…直前の変態電話と間違って…馬鹿とか言っちゃったから……」
と、その言葉に、もしかして今泣いてたのはそれか…と、ギルベルトは脱力する。

「…怒らねえよ……」
「…ごめん…」
「…だから、怒ってねえって…。
俺様、アルトんとこに変態電話かかってくるってことは、もしかして変態にアルトの身元割れてんじゃね?って思って、すっげえ焦っただけで…怒ってはねえよ。
無事で本当に良かった…」

ああ…もう本当に…本当に無理だと思う。
可愛いくせに自己評価が低くて無防備で……これ何かあったら絶対に助けや慰めを求めずに黙ってひっそり死んでるタイプだ…と、正直怖くなった。

どうしよう…どうすればいい……

「…もう…ストーカーでも良いか……」
はぁ…とギルベルトは諦めの息を吐いた。

「なあ、アルト、頼みがあるんだけど……」
と、ギルベルトは一つの決意をする。

「頼み?ギルが俺に?」
涙目で見あげてくるアーサーが可愛すぎて胸が痛くなる。
痛々しくて可哀想で…心臓が張り裂けそうなほど愛おしい。

「俺とな、暮らさねえ?
もちろんアルトの親には俺が説明して頭下げる。
もうなんつーか…1人にしとくの怖えわ、お前。
すっげえ怖すぎて俺が落ちつかな過ぎて日常生活支障をきたすレベルだわ」

毒食らわば…と言うのはアーサーに失礼か…とは思うが、ある意味それだ。
関わってしまったらもう気になって気になって気になって…たぶん自分が一緒に居なかった時にアーサーに何か起こったら一生後悔する。

…アルトがどうしても嫌だっつーんなら、俺様が終電ぎりぎりまで通うけど……

と、もうこれストーカー認定されても仕方ねえよな…と思いつつ言うと、腕の中でアーサーは小さな小さな声で…――俺なんかが一緒にいて…いいのか?――なんて事を可愛らしい上目遣いで言って来るので、もう絶対に使うまいと思っていた、今までの人生で一度も使った事はないが決して少なくはないコネを全て総動員しても、この事案は通そうと心に固く誓ったのだった。


結局非常に不本意だが親の名を借りる。
今現在の会社、ワールド商事の代表取締役は3名。
社長として表に出るのはアントーニョの祖父なのだが、残り2名は実はアントーニョの祖父の長男である伯父とギルベルトの父だったりする。
元々はギルベルトの祖父がアントーニョの祖父と親友で2人で代表をやっていたが、早くに亡くなった祖父の跡を継いで父が代表取締役を引き継いだ。

そういう関係であるため、ギルベルト自身はワールド商事に入社する事は避けたかったのだが、父よりも祖父に似ているらしいギルベルトを現代表取締役であるアントーニョの祖父がどうしてもと欲しがった。

好人物ではあるが、この件に関しては容赦なく、ギルベルトが受ける会社受ける会社圧力をかけてくれたおかげで海外まで飛び出す事になったのだが、なんとギルベルトが入社した会社ごと買収と言う荒業に出て、絶対に祖父や父の関連で便宜は図らないと言う確約の元、渋々退社せずにそのまま残ったという現状である。

そこまでしたわけなのだが、今回は仕方ない。
これで完全に将来的に取締役を継ぐ事になりそうだが、頭を下げて名前を使わせてもらった。

いわく…お宅のご子息を社長の跡取り(予定)が助けて以来、健康的にも身辺の安全的にも色々心配で気になり過ぎて放っておけないと言う事だから、最終的に社会人になってもきちんと当方で面倒を見るという前提で、預かれないかと社長自ら交渉。
会社はいわゆる財閥系大手なのもあって二つ返事でOKが出る。

おそらく向こうの認識(将来=ワールド商事に入社)と、ギルベルトの認識(現在~将来にかけて=自分の家で面倒を見る)というのには多少のずれはあると思うが、こうなれば嫌でも取締役コースなので名義上秘書にでもすれば無問題だ。
実際、入社7年目にしてかなりの実績をあげているので、最終的にそうなっても社内で異を唱えるものもいないだろう。

どうやっても逃げられない運命なら、この際モチベーションとしてこのくらいの便宜は図ってもらおうとギルベルトは開き直る事にした。





そして数カ月後……

「おかえり、ギル」
当然自宅の鍵は持っているが、わざとチャイムを鳴らすと、パタパタと軽い足音と共に最愛のパートナーがドアを開けて出迎えてくれる。

料理はまだまだ日常的に食べるには危ない出来なので、夕食はギルベルトが帰ってから一緒に作る事になっているが、それはギルベルトの希望でエプロンをつけて出てきてもらう事になっている。

ああ…今日もアルト可愛いなぁ…と、ギルベルトはそこで癒される。

そう、3月生まれのアーサーはめでたく18歳になり、さらにその月に無事高校を卒業して大学生に。
そして春休みの間にドイツに帰って籍を入れて式を挙げ、めでたく法的にも正式なパートナーになった。

こうして日々仕事で疲れて帰宅すると、癒し空間にダイブできるようになったというわけだ。
今のギルベルトの目標はアーサーに1人で料理が出来るようになって貰う事である。
そのために日々特訓中だがこれがなかなか難しい。

…しかし俺様は断じて諦めねえぞ…
と、心の中で誓う日々。
そう、アーサーが料理をマスターしたら、いつか言ってもらうのだ。

――お帰り、ギル。ご飯にするか?風呂にするか?それとも…俺か?

そう、そんな変態じみた欲求を持っていたとしても、相手がそう思っていなければ変態でもストーカーでもない。

ストーカーとは何をされるかではなく、誰にされるか、なのである。





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