とりあえずルートヴィヒの部屋に戻ってふたりきりになっても、泣きながら手足をバタバタさせるフェリシアーノに、ルートは少し困ったように眉を寄せた。
「どうすればいいのかなっ?!俺どうしよう?!」
というフェリシアーノの頭を指先で撫でると、ルートは少し考えこんで、やがて口を開いた。
「俺と一緒にいればいいんじゃないか?どうせお前はいつでも俺の後ろにいるか俺の腕にぶら下がっているわけだしな…。ジャスティスの仕事は出来なくなるが…」
「あ、それは全然構わないんだけど。俺怖いの嫌いだし。」
と、そこは真面目な顔で言うルートにあっさりとフェリシアーノは答える。
「そっか、そうだよね~♪そっか~。俺ずっとルートと一緒にいられるんじゃん♪違う任務とかに送り出される事ももうないんだね~」
フェリシアーノの脳内では本気であっさりと問題が解決したらしい。
むしろゴキゲンでルートの手の平に座って足をぷらぷらさせるフェリシアーノに
「お前…それでもういいのか…。ホントに楽天的というか…人生幸せそうだな…」
と、ルートの方が深い深い溜息をついた。
一方アントーニョの部屋では青い顔で硬直しているアーサーを机に下ろすと、アントーニョは本を重ねた上にハンカチを引いて簡易テーブルを作り、その上にアイラと作ったトマト模様のケーキを乗せた。
「このケーキ可愛えやろ?アイラちゃんに材料もろて親分が作ったんやで~」
食べたって?とにこやかに言うアントーニョ。
爪楊枝をさらに小さく削ったものを手渡されるが、さすがにアーサーもうなだれた。
「このままだったら…俺どうするかな…」
着替えに食事に風呂にベッド。
全て他人の手を煩わせないと用意できない。
「そもそも…ジャスティスとして働けなくなったらここにいる意味もねえよな…」
唇を噛み締めるアーサーをアントーニョはひょいっとまた手に乗せると、自分の顔のあたりまで持っていった。
「ええやんっ。親分と一緒にここで暮らそ?仕事は…タマの能力は魔法やさかい、身体のおっきさ関係ないし、戦闘中は親分の胸ポケットにでも入っとったらええんやない?必要なとこに親分が連れてったるわ。で、胸からビ~ム!」
シュピ~ン!と擬音をつけるアントーニョにアーサーは思わず吹き出した。
「ばっかじゃねえっ!」
と、ケラケラ笑うアーサーに
「やっと笑ってくれたな。」
と、アントーニョは頬をすりよせた。
「……ば~か」
そこでふいっと赤くなって顔をそらせたアーサーは、ふとアントーニョの耳元に目を留める。
「おい…ポチ。このピアスってさ…」
と言うアーサーの言葉に、アントーニョは小さくうなづいた。
「そや。カルロスのと一緒やで~。ていうか、元々は親の形見で兄弟で一個ずつもっとったんや。でもカルロスいなくなってもうたから。」
「そっか…」
アーサーは少しまたうなだれる。
「あ、でもな」
それを察してアントーニョは続けた。
「これホンマはあいつはタマの瞳の色にそっくりやから、タマにやりたいって言うとったんや。で、今度来た時に俺の持っとる片方受け取るって事になっとったんや。で、俺も同じ事思ったんやけど…あいつが先にやりたいって思っとった事を俺がやってまうのもずるいな~って…でもやっぱタマにつけてほしいわ~。どないしよ。」
「ん…じゃあさ、カルロスが持ってた方は形見としてお前がつけてて、お前が持ってた方を俺がつけるとか?」
アントーニョの耳についたピアスをサワサワ撫でながらそう言うアーサーに、アントーニョの顔がぱあっと明るくなる。
「ええの?!それならそうしよ!二人で一組のピアスを1つずつ持つなんて嬉しいわ~」
と浮かれたアントーニョの言葉で、アーサーは深く考えずに言った自分の提案の意味にいまさらながら気づいてワタワタと慌てた。
「あ、あのっ!」
「取り消しは聞かへんで~!自分が言うたんやからなっ!!」
慌てて否定しようとしたところに、アントーニョが先回りして言う。
「で、でもっ…」
「カルロスかて、きっとそうしたら喜ぶわ」
とまで言われると、もう何も言えない。
「…でも戻らなかったらつけられねえぞ。」
とそこで最後の抵抗を試みたが、それも
「もしタマの大きさが戻ったならピアスのままで、戻らんかったらペンダントにでも作り変えればええわ。」
と、簡単に逃げ道を塞がれた。
こうして双方若干の覚悟を決めたわけだが、結局件のイヴィルの粉はイヴィルの死亡後しばらくして効力をなくすものだったらしい。
一晩寝たら食中毒で寝込んだモノは回復し、ロヴィーノの涙は止まり、アーサーとフェリシアーノも元の大きさに戻った。
「あ~、あのままタマ引き取って同じ部屋でいつも一緒言うのも楽しいと思うてたんやけど…」
アントーニョは一瞬残念そうな顔をするが、
「ま、あのままやったら抱きしめたら潰してまうし、こうしてお揃いのピアスつけられるからまあええか。」
と、満面の笑みを浮かべ、アーサーの耳元に光るピアスの片割れを満足気に眺めた。
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