「アントーニョさん、ちょっと話が…」
と、とりあえず声をかけたもののどうしたものかと思っていたレインの足元を、黒い不気味な生物が横切った。
「きゃあぁぁあ!!!!!」
悲鳴をあげて飛び退くレインに向こうも驚いたのか、今度は食堂の奥へと逃げていく。
「なんや、あれっ!!!」
走り出すアントーニョ。
「食中毒起こしたイヴィルらしいですっ!」
と、伝えると捕まえようと追うが、棚の隙間へと逃げこむ。
「棚壊すでっ!!」
と、腕を振り上げるアントーニョに
「やめてください!!!」
と、今度はアイラが悲鳴をあげた。
「せやかて逃げられるでっ?!」
と叫ぶアントーニョに、
「やめろっポチ!俺達が行くっ!!」
と、走り寄った妙香の手から飛び降りると、いつのまに作ったのか小さな白旗をパタパタ振るフェリシアーノの襟首をつかんだアーサーが棚の奥へと駆け込んでいく。
「俺やだよぉ~!怖いよぉ~!“達”を取ってよぉぉぉぉぉ~~~」
フェリシアーノの悲鳴を残して、チビ天使組が壁と棚の隙間へ…。
「無理無理無理ぃぃ~~~!!助けてルートぉ~~!!!!」
フェリシアーノが白旗を振り回すので、埃が舞い散る。
「ば、ばかぁ!白旗振り回すなっ!!」
ゲホゲホと咳き込むアーサー。
おかげでアームジュエリーをロッド化したのはいいが、詠唱が出来ない。
「タマっ?!タマっ!!大丈夫かっ?!!!」
と、そこで追い打ちをかけるように棚をドンドン叩くアントーニョ。
それで更に埃が舞い散る。
こいつら…俺を殺す気か…と咳き込みすぎた涙目で前方を見るとイヴィルは埃も平気らしく、こちらが攻撃出来ないのを見越して飛びかかってきた。
やばいっ!!!とアーサーが目をつむった時…
「いやあぁぁぁ~~~!!!!」
と言う悲鳴と何かボン!と言うような音。
恐る恐る目を開けてみると、どうやらフェリシアーノが怯えて振り回した白旗がイヴィルにヒットした模様。
火事場の馬鹿力というやつなのか…
イヴィルが吹っ飛んで壁に激突する。
そこで追い打ちをかけるように、さらに目をつぶったフェリシアーノが闇雲に振り回す白旗の柄の先端の尖った部分が、おかしな所を突いたらしい。
プシャ~ン!と変な音がして、イヴィルの身体が破裂して、避けるまもなく何か粉のような物が飛び散って天使組に降りかかった。
呆然とするアーサーと、いまだ状況が理解できず白旗を振り回すフェリシアーノ。
「タマ?タマっ?!大丈夫か?!怪我ない?!!」
やがて怪力で棚を動かしたアントーニョが顔をのぞかせ、手を伸ばしてくるのを、アーサーは
「触るなっ!!」
と慌てて止める。
「俺達、爆発したイヴィルから出た粉被ったから…どんな影響でるかわからないからっ…」
いつでも死ぬ覚悟は出来ているとは言え、今の状況はなんだか気持ち悪い。
食中毒を起こした粉…ならまだしも、他の効力があったなら…。
自分で自分を抱きしめるようにしてしゃがみこむアーサーを、アントーニョは止める間もなくヒョイっと掴みあげた。
「ちょ、言っただろっ?!どんな効果がでるか…」
慌ててジタバタするアーサーにアントーニョは
「かまへんよ~。何が起こってもタマはタマやん。」
と、笑いかける。
「でも一応粉だらけやし洗っとこか~。ほら、フェリちゃんも」
と、二人を流しに連れていき、そのまま蛇口をシャワーにして二人の汚れを洗い落とす。
「服…濡れてしもたな~。こんな小さいと着替えあらへんなぁ」
と困ったように言うアントーニョの心配は、アーサーのほあたっ!と言うステッキ一振りで一瞬で乾いた事で解消する。
その後しばらくそこで様子を見ていたが変わった事は起こらない…。
ただ一つを除いては…。
「おかしい…もう魔法使って3時間は経つのに全然解けねえ…」
異変に気づいたのは魔法をかけた張本人のアーサーだった。
「ねえ…兄ちゃんの場合ってさ…睡眠薬っていう他の薬と混ぜたら泣き薬になっちゃったみたいじゃない?てことは…もしかして俺達の場合、魔法とさっきの粉が化学反応起こしちゃったとか言う可能性は……」
青くなるフェリシアーノに、
「かもしれねえ……」
と、同じく青くなるアーサー。
「ええ~~?!!俺一生このままなの?!嫌だよぉ!ルートぉ~~!!!!」
パニックを起こして泣き出すフェリシアーノ。
そのまま気を利かせた妙香が事情を説明したルートを連れてきて、フェリシアーノは泣きながら引き取られて行く。
それを見送ってアントーニョは再度呆然としているアーサーを手の上に乗せ、
「じゃ、俺らも帰ろか~」
と、なんでもないように言うと食堂を後にした。
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