ローズ・プリンス・オペラ・スクール第十二章_1

ゲート


「ルッツ。質問がある。黒鷲だと言葉わかるんだよな?それでたのむ」
理事長室に着くなりローマはギルベルトではなくルッツに話しかけた。

本当に珍しく余裕がない真面目な表情のローマにギルベルトは少し戸惑うが、それでも
「ルッツ、理事長の言うとおりにしろ。」
と、頭の上の小鳥をソっと撫でる。

それに対してルッツはピィと一声あげるとパタパタとギルベルトの肩に移動してポワンと黒鷲へと姿を変化させた。

「最初に言っておく。
お前は俺の最愛の対のせがれだ。
お前が卵の頃長く封印したのは託すべき相手がいなかったからで他意はねえ。
普通の人間の教育とはちぃっと違うし、グレちまったら大変さは人間の比じゃねえからな。
本当はロマがもちっと育ってこの学園しきれるようになって俺が引退したら、俺が育ててみようかとも思ってたんだ。
ま、その前に手違いで孵っちまって、ちょうどお前を育てるには適任な男がいたから託しちまったがな。
これからの計画にはお前の魔の方の力を利用させてもらうことになるが、それは力の属性であってお前自身の性質ってわけじゃねえ。
だから自分を恥じるな。
役に立つ属性の力を持っている事を誇っていい。わかるな?」

その声音には少しの切実さと多くの親愛の情がこもっている気がした。

――理事長、あなたの心に嘘がないことは知っている。
俺が卵の頃からあなたはよく俺に話しかけてくれていたしな。
魔の血を引くことは事実でその力を誇れるかというとわからんが、俺を生かしてくれたあなたには感謝をしているし、俺を育ててくれた兄さんのことは誇りに思っている。

「ああ、それで十分だ。
その誇りに思う兄貴がお前を誇りに思っていると言うことも自覚しとけよ。」

その言葉にローマは満足気にうなづくとルッツもそれを受けてうなづいた。

「じゃ、本題に入る。
ルッツ、お前が持つのはただの魔の力じゃねえ。
お前の片親は魔王の子の竜で、お前は血筋的には魔王になれる可能性があった竜だ。
竜の血筋は魔王の子よりも孫の方が魔力は高い。
だからお前がその気になれば、魔界へのゲートを開いて人間を魔界に連れて行く事ができると思う。
そいつをやってもらいてえ。」

――うむ。やったことはないが、出来る事なら協力はしよう。

ルッツに依存はない。
…というより、やらなければ魔が大量に人間界に押し寄せてきて、愛しい優しいあの少年がその犠牲者になる可能性もたぶんにあると考えればやらない理由はない。

たとえそれを出来る自分がそれを出来る血筋だと知られて引かれてしまっても…だ。

一瞬曇るルッツの表情を見逃さずチラリと視線を向けるギルベルトの

――誰がなんと言おうとお前は俺様の弟だし、俺様だけは側にいるからな。

との小さなつぶやきに、ルッツは応えるように少し擦り寄った。

そうだ…自分には自分の正体を知った上で受け入れ、育ててくれている兄がいる。
その期待にも応えたい。


「よし。じゃ、これでルートは確保できるとして…どいつを送り込むかなんだが…」

そこでローマはちらりとギルベルトに視線を向ける。
それを受けてギルベルトはうなづいた。

「ああ、もちろん俺様は行く。ルッツの兄貴だしな。」

なぁ、と、ギルベルトは肩の黒鷲の頭をなでる。

「…戻ってこれねえかもしれないぞ?なにせ成功したら魔界が滅ぶっつ~んだ。
脱出できるかどうかわからねえ。」

「だったらなおさら弟のルッツだけを行かせるわけにはいかないしな。」

――…兄さん…。

「まあ二人して帰れっだろ、多分。
ルッツが居れば俺様が死ぬことはねえだろうし、ルッツに何かあったら全員帰れねえってことだしな。」

「そりゃそうだな。」
なるほど、と、ローマはうなづく。

「とりあえず…トーニョのお姫さんの話信じるなら、こっちの空間にも魔が人間のフリして潜んでるらしいから、それに備えるためにも大勢は送れねえ。
ってことでだ、少数だけに精鋭を送りこみてえ。
今回は敵蹴散らして卵破壊するか弱ってるらしい魔王ぶっ飛ばすのが目的だから、火力重視。
出来れば太陽大勢送りてえとこなんだが、この前話した通り月のお姫さん達が次々と死んじまって、戦える太陽が今ほぼいねえ。
っつ~わけでトーニョは決定だ。
トーニョんとこのお姫さんはなぁ…実戦経験がない上、トラウマだろうし悩むとこなんだがなぁ…連れて行きてえ。
でもってフランは今回は留守番組だ。
あいつの能力はガチバトルに向かねえし、相方はまだ実戦経験ない坊やだからな。
あと使えそうなのは…お前と…カンパニーの方からベテランの太陽1人くれえか…」

「ちょ、そんなに少ないのか?」

敵地で魔王を倒すか魔王の卵を破壊するというのに4名?
さすがに厳しいのでは?とギルベルトは思うが、

「アウェイだし、その10倍いたところで魔王んとこ着くまでに見つかったら多勢に無勢だろ。
なら思い切り火力あるあたりが少人数で行った方が危険は少ねえ。」

と言われれば、なるほどと思う。

「だいたいルッツの背に乗りきれる人数だな。
でねえと徒歩でなんかたどり着けねえだろ。」

と言われれば更に納得だ。

「とりあえずな…トーニョの方の説得任せていいか?
たぶん奴は嫌がるだろうが、奴の力が増すっていうのを別にしても姫さんは一度魔王のところまで行く道を辿ってるわけだから、居れば道案内になるかもしれねえしな。
出来れば…っつ~か、絶対に連れて行きてえ。」

あ~…なるほど…とは思うものの、説得する側のギルベルト自身も実はあまり気が進まない。
出来ればアーサーを連れて行きたくないというのが本音だ。

「まあ…お前が気が進まねえのはわかるが、俺はもう一件説得しなきゃなんねえとこがあんだ。そいつが加わるかどうかでいけるかどうかが決定する。
対に死なれたばっかのやつに対が死んだ事伝えると同時に出動うながすなんざ、人間のやることじゃねえとは思うんだけどよ……」

苦い顔でそう語るローマの言葉で、ギルベルトは、ああ、と、思い出した。
例の…魔王を生んで拘束が解けたところで自害した能力者のパートナーか……。
確かにそれは気が重い……。

しかしそうせざるを得ないほど事態は切迫しているのだ。

仕方ない…ハルバードの一振りや二振りくらいは避けつつ説得するか……

ギルベルトがため息をつきつつも了承して部屋を出て行くと、ローマはカンパニーの方へと使いを出した。





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