ローズ・プリンス・オペラ・スクール第十一章_8

「まあ、簡単に言えば空間の中で迷子になっちゃったって感じ。」

フランシスはとりあえず今の時点でアントーニョを刺激しないように、魔王に取り込まれた人間が目前に迫っている人間界の危機を知らせるため、自分の持つ魔力と同じ属性でリンクしやすい月の属性の魔力を持つアーサーを精神だけ呼びつけたこと、さらに自分が長い年月をかけて知った魔族に対する膨大な量の知識を短時間に教えるために、自分の過去を疑似体験させようと自分の精神とリンクさせたことだけを説明する。

「…で、フラン、自分戻れるなら一緒に連れて来れへんの?」
とアントーニョはそれを聞いてきくが、フランシスは小さく首を横に振った。

「お兄さんは正確には坊ちゃんの場所を把握してるわけじゃないし同じ場所にいけるわけじゃなく、あくまでフェイクの空間で坊ちゃんに夢を見せてるだけだから。
自分の帰り道はわかっても、自分とは別の場所にいる坊ちゃんの帰り道はわかんないのよ。」

「お手上げって事か?」
まゆを寄せるローマにフランシスは小さく息をつく。

「坊ちゃん呼び寄せた相手より強く精神リンクさせて身体の方に誘導させられればいいんだけど…相手は同じ月の属性でしかも魔王が魅入られるくらい強い魔力の持ち主だからね。
難しいんだよね…。
少なくとも俺には無理。」

「つまり…アーティの身体がここやでって教えたればええってこと?」
珍しく口数少なく、ひどく真面目な顔で考え込んでいたアントーニョが顔をあげた。

「うん、まあそうなんだけど、そんな簡単な事じゃないでしょ?」

「やってみなわからんやん。ええからみんなとりあえず帰ったって。」

「へ?だってお兄さん以外連絡取れないでしょうが。」

「ええからっ!」

強く言われて戸惑うフランシス達。

「ま、パートナーのこいつが言うんだ、任せてやろう。」
と、そこでローマがまず部屋を出て、ギルベルトとフェリシアーノも慌ててそれに続く。

そして最後まで残っていたフランシスは、歩を進めかけて、一瞬止まって振り向いた。


「トーニョ、本当に平気?」

やけになってたりしないよね?と心配になってそう聞くフランシスに、アントーニョは

「世界の事情も魔王も知ったこっちゃないわっ。
ただアーティが迷っとるならパートナーの親分が帰り道照らしたらな誰が照らすんや。」

と太陽のような…とよく称される、まさに太陽の石の適応者に相応しいような燦々と降り注ぐ陽の光のような笑顔を浮かべた。



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