ローズ・プリンス・オペラ・スクール第十一章_4

バタバタと慌ただしくアントーニョの離れへと急ぐ間、ローマは
「うるせえからアントーニョには言うなよ?」
と念押しして説明を始めた。

どうやらここ1年ほどで月の魔力の強い者ばかりが眠ったまま衰弱死するという事象が続いているらしい。

「…っつっても、まあ若いモンばっかりなんだけどよ。」
と顔を顰めるローマに、フランシスは
「あ~、心が柔らかいうちの方が他者にリンクしやすいしね…」
とやはり形の良い眉をひそめた。

「ああ?やっぱりあれか。どっかに心が引っ張られてんのか?」
これまでにもそういう状況の時に呼びつけた夢の能力者達が言っていたらしい。
ローマが聞くと、フランシスはうなづいた。

「たぶん。少なくとも“夢”じゃないよ。
非現実の夢を見てるなら俺らにはわかるし、俺らでなんとかできる。」
「あ~、前別んとこで同席した夢の奴もそんな事言ってたな。
じゃ、やっぱり今回もお前じゃお手上げか?」
「ん~それなんだけどさ…。」
「お、何かあんのか?」
「いや…可能性にすぎないんだけど…」
「どっちにしろ打つ手は他にねえんだ。言ってみろ」

そう促されてフランシスは少し考え込んだ。

「あのさ…普通の夢なら俺らある程度リンクして干渉できるんだよね。
今の坊ちゃんの状態っていうのは、精神が身体から離れてるだけで、起きてる状態なわけね。
普通だと夢って寝てる時に見るもんなんだけど、白昼夢ってあるじゃない?
あれは起きてる時にフッと空想や想像を夢のように映像として見ていることで、まあ俺らが戦闘で敵に幻影見せたり寝かせたりするのもそういうモンなんだけどさ。
つまり俺らは白昼夢を見せる事ができるってことなわけ。
ってことは…だ、今状況的に起きている状態のはずの坊ちゃんに俺が夢として干渉してこっちの方へ戻ってくるように説得なりなんなりできないかなぁ…と」

「おお~!!お前頭いいなっ!それいってみるかっ!!」
ドンっ!と思い切り後ろから背を叩かれてたたらを踏むフランシス。

「あのね、リスクもあるんだよ?」
と注意をして説明しようと口を開きかけるが、
「あ~、このままじゃ死ぬんだからそれ以上のリスクなんてねえだろっ」
と、聞きもしないで話を進めるところが、この親父、実はクルン兄弟よりアントーニョの血縁なんじゃないの?と秘かに思う。

すでに何かに強く引っ張られているところに強引に干渉することで、逆に精神を壊す可能性もあるんじゃないか…そう思ったわけなのだが、まあ言われてみれば確かに放っておけば死ぬということなら、それより悪い事態にはなりようがない。

そんな事をつらつらと考えて黙り込んでいると、ローマは
「ま、何があっても責任は俺が取る。可能性があることは全部やってみようぜ」
と、フランシスの肩に軽く手をおいて、アントーニョの離れの寝室へと足を踏み入れた。



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