考えをまとめるのに紙とペンをくれと言われて渡したら、ギルベルトはすごいスピードで資料に目を通し、雑然と書かれたその文の中から必要なモノだけをピックアップし、渡した紙面に簡潔にまとめていく。
見る見る間に10分の1以下くらいにはまとまっていく資料。
しかも必要な部分は外していない。
自分の理解のためにやっているのかと思えば、ギルベルトはそれをローマに渡し、自分はここに書いてある事の元資料の分はすでに頭に叩きこんであるから、わからないところがあったら聞いてくれとまで言う。
どうやらこれは自分にも教えろと言ったローマの要望に対する答えらしい。
――まったく大した事務能力だぜ。現場に出しちまうの惜しくなるな…
真面目で冷静、勤勉で鍛錬を欠かさず細かい事にもよく気づき、己の利よりも他人をよく気遣う。
頭も良いし理解も早い。
なのに今ひとつその能力に見合った待遇が得られないのは、見えすぎてしまうがゆえに冒険ができないせいか…。
幸せというのはしばしば、その読めない不確実性な部分にひそんでいるものである。
それを誰よりも享受してきたローマはそう思った。
こうして約2時間弱かけてギルベルトが山のような書類をまとめ終わった頃、ノックの音共にアントーニョとフランシスの二人…いや正確には眠らされたままアントーニョに抱えられたアーサーの三人が室内に入ってきた。
しかし落ち着くまもなくローマの第一声
「あ～、フラン、フェリも呼んで来い。
注意をしておかなきゃなんねえから。
トーニョも疲れて眠ってるとこ可哀想だが、同じく事情を話して注意してえからお姫さん起こせよ。」
その指示に、
「ふ～ん…。まあ…事情を教えてもらえるのはありがたいね。
おっけぃ。呼んでくるね。」
と、フランシスはその言葉に素直に部屋を出て行くが、アントーニョは首を横に振った。
「気をつけんとあかんことなら俺が聞いて気をつけるから構へんわ。
話さきに聞いた上でアーティに話すかどうかは俺が決めるから。」
「…どういう状況だったのか話も聞きてえ」
「そんなセカンドレイプみたいな可哀想な事やめたって。」
「聞かねえとちゃんとした計画がたてられねえで危険なんだよ。
フェリシアーノにも聞くし…。」
「俺をなんやと思うとるん？この子のパートナーやで？
この子に起こってる事は大抵石通してわかっとるわ。
それでも足りひんのやったら、あとで俺が聞いておっちゃんに報告したる。」
徐々に苛つき始めるアントーニョ。
「あ～、おっけぃ。
状況完璧に把握してんなら、本人より他人のほうが客観的に報告できると思う。
俺もトーニョの意見に賛成です。」
それ以上押せば帰りかねないアントーニョの性格を熟知しているギルベルトは、そこでそう進言した。
ローマはそれに少し考え込んだが、最終的に
「ま、それはそうかもしれねえな。じゃ、そういうことで、足りねえことはトーニョ、お前が責任持って聞いて、ギルベルトに報告。
ギルベルトはそれを加味した上での計画案を作成して俺に報告だ。
それでいいな？」
と決断を下した。
即了承するアントーニョ。
それに対して
――あれ？俺様なんか仕事増えてる？
と、今更ながらに疑問を持つギルベルトだが、押しの強いマイペースな二人相手に敵うはずもなく、がっくりと肩を落としながらも了承した。
「そう言えば…フェリちゃんの方はそのままで良いんですか？」
そこで気が回り過ぎる男…ギルベルトは今度はもう一人の当事者を思いやる。
立場的にはアーサーと同じはずだ。
アーサーに話すのが可哀想ならあの子に話すのも話させるのも酷なのでは？とローマに視線を向けると、ローマは、あ～と頭を掻いた後
「ま、あれも俺の孫だし大丈夫だろっ。それでなにかあったらお前フォローしといてくれっ」
と、当たり前に言うと、理事長デスクにつく。
――は？また俺様？
ぽか～んと、呆けるギルベルト。
気が付きすぎるがゆえにどこまでも酷使される、ある意味普憫な男である。
なんというか…最近まるでローマの秘書のように思えてくる。
そうこうしているうちにフェリシアーノを伴ったフランシスが戻ってきた。
Before <<< >>> Next
0 件のコメント :
コメントを投稿