ローズ・プリンス・オペラ・スクール第八章_6

「トーニョ、遅いよっ!!」

アントーニョに対してこれほど来てくれてありがたいと思ったことはないが、それでも口をついて出るのは文句の言葉。

本当に勘弁してよ、お兄さんあの美しくない生物の相手しなきゃいけないところだったよ…とその後思った事はずっとそれと対峙していたギルベルトに怒られそうなので口には出さないでおく。

そんなフランシスに対してアントーニョの返答…。

「あ~、堪忍な~。アーティ可愛すぎて我慢できひんかってん」
「ちょ、お前まさか?」
へらりと言うアントーニョにフランシスの頬が引きつる。

「しゃあないやん。
最初は媚薬効果が効いとって可哀想やったから抜いたろ思ったんやけど、あんなかわええ姿見せられたら抜いてやるだけなんて無理やってんもん。」
「お~ま~え~はぁあああ~~~!!!」
悪びれないアントーニョの言葉に、フランシスはガックリと肩を落とした。


「帰ってから好きなだけやんなさいよっ。こっち手遅れになったらどうすんの」
「あんなんギルちゃんの風で切り裂いてもうたらええやん。自分ら二人もいて何しとんの?」
と、面倒くさそうに言うアントーニョに、それを耳聡く聞き取ったギルベルトが触手の群れの中から叫んだ。

「こいつら切っても死なねえし、なまじ切ると切り口から催淫ガス出すんだよっ!
良いから部屋ん中の本体をお前の炎で焼いちまってくれっ!」

「あ~、そういうことか。」
アントーニョは納得して、よいしょっと抱きかかえていたアーサーを後ろに背負い、許可も得ずフランシスの腰の飾り紐を解いて奪うと、それでアーサーを縛って固定する。

「…お前…置いていけば?」
その格好で向かおうとするアントーニョに、フランシスがさすがに呆れた視線を向けるが、アントーニョは

「離れたら危ないってわかったのに置いていけるかい」
と、あくまでそのまま歩を進めた。

こうして部屋に歩を進めるアントーニョ。
たどり着くまでが少し面倒か~とハルバードを構えたが、不思議な事に触手はアントーニョの方に伸びてきてもかすかに赤く発光する膜のような物にジュッと蒸発をさせられる。

「トーニョ…お前、それなんだよ?」
それに気づいたギルベルトにそう聞かれるが、アントーニョにだってわかるわけがない。

「わからんわ~。でもまあ面倒なくてええんちゃう?」
便利なものなら理屈なんてわからなくても放置でOK。
そんなアントーニョの楽天的な性格が羨ましい…とギルベルトは思う。

自分ならわけもわからずそんな状態になっていたら、まず理由がわかるまで落ち着かず、次の行動になど進めない。

そんな感じで入り込んだ部屋の奥、クローゼットの中から触手が伸びている。

「あっこが本体か~。じゃ、焼いとこか~」

アントーニョは紅いハルバードを一振り。
そこから出た炎が一直線にクローゼットに向かって、正面のクローゼットごと魔物を焼き払った。


本体が死んだからだろうか…それまで切られてもうねうねと意志を持っているように蠢いていた触手が一斉に力をなくして動きをとめる。

フェリシアーノを拘束していた触手も同じくで、開放されて上から降ってきたフェリシアーノをギルベルトが慌てて受け止めた。

そして青い顔でまだこびりついている触手をペリペリ剥がす。


「これで掃いて集めてトーニョの炎で一気に焼いちゃおうか…」

そこでいつのまにやら箒を手にしたフランが部屋に入ってくる。

「フラン…お前~。何自分だけ見物してやがったんだよっ」
それにギルベルトが思い切り眉を釣り上げると、
「だってぇ…お兄さん眠らせるかせいぜい幻覚見せるくらいしかできないから…この手の触手ちゃんには無力でしょ?」
と、テヘっと笑って張り倒される。

ともあれ、罰として触手の掃き掃除をやらされるフランが全て綺麗に掃き終わると、アントーニョが改めてそれを全て燃やして灰にした。

その間、ギルベルトはアントーニョがさきほど燃やしたクローゼットを何やら熱心に調べている。

「トーニョ、どしたの?」
と首をかしげるフランシスに、ギルベルトは首を振るが、難しい顔をしたまま考え込んだ。


「なあ…なんか変やないか?
ここの劇場、確かに初めてんとこなんやけど…なんで魔物が入り込んどるん?
スタッフもグルなん?
そもそも俺らみたいな戦闘系の動き封じるためならとにかく、なんで今回の魔物はアーティやフェリちゃんに媚薬ガスなんて使って色っぽい事しとるん?」

今まで魔物は情報を得て現場につくと、向かってくるので倒して終わりだった。
しかし今回の魔物はどう見ても何か目的を持って動いているようにしか見えない。

そんな風に理屈で考えているわけではないのだろうが、アントーニョはピンポイントで嫌なトコロに気づいてしまう。

「…それは……俺の口からは言えねえ。理事長んとこ行くぞ。」
「なん?ギルちゃんだけなんか知っとるん?」
「だから、言えねえんだって!」
「ちょ、それは許せへんで?おかげでアーティ危ない目に遭うたんやし、言ってやっ!」

その場で戦闘を始めかねないアントーニョの様子に、フランシスが慌てて割って入った。
「とにかく帰ろうっ!理事長に聞くのが一番確かでしょ!!
1年生組も休ませてあげないと…」

「…まあ…確かにアーティも早う風呂に入れて綺麗にして休ませてやらんとやから行こか」

納得はしてないようだが、アントーニョもアーサーを休ませたいというのは同意らしく、フェリシアーノをギルベルトが背負い、驚く一同の前で黒竜に姿を変えたルッツに乗って、5人は学園へと戻っていく。

そして学園につくと着替え等を済ませて理事長室に集合ということで、とりあえず解散した。



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