ローズ・プリンス・オペラ・スクール第八章_2

「ちゃっちゃと着替えよ。なんやこの空間自体が髭臭くてむさ苦しいわ。」
やっぱアーティと着替えたかったと不機嫌につぶやくアントーニョに、フランシスは

「お前、お兄さんに対する愛が足りないよ。」
とわざとらしくため息をつくが、

「そんなもん欠片もあるかいっ!
親分の愛は全部欠片も余さんとアーティのために存在するんやっ!」
と即返され、

「お前…ホントどんだけ坊ちゃん好きなのよ…」
と、今度こそ本気のため息をつく。


お互い今の時点で対を持つメインの宝玉の適応者である自分とアントーニョ。
しかしその対に対するテンションが天と地ほど違う。

フランシスの場合、最初会った時はどうしよう?と思った自分の対も、最近はまあ歳相応に可愛いところが多いように思えてきた。

体格がいいので他の人間に彼に関して可愛いという表現を使うと変な顔をされる。
しかし少し我儘なところはあるが、あれで意外に子供っぽくて素直な所も多く、明るい性格もあいまって、そう、言うなれば大型犬がじゃれついてくるような感じで可愛いのだ。

メタ坊や…と悪友二人に揶揄される体格が表す通り食べることが大好きで、美味しいものを作ってやれば幸せそうに頬張る様子も可愛いと思う。

可愛いと思える相手だから対に選ばれるのか、対に選ばれたら可愛いと思えるようになるのか…。

最初はそうは思わなかったメタ坊やは、今では確かに可愛い自分の対なのである。

しかしだからといって性的なモノを感じるとか独占したいとかそういう感覚はなく、むしろ我儘なところのある彼がちゃんと友人を作れるのかとか、同級生と仲良くやっているのかとか、そんなフランシスの気になり方は、子どもに向ける親の愛情、もしくは年の離れた弟などに向ける愛情に近いのだと思う。

もし彼がある日突然好きな相手が出来たとか報告してきたら――それが怖い怖い太陽の適応者が溺愛している対の坊ちゃんとかじゃない限りは――先輩として相談に乗って、アドバイスくらいしてあげるよ?くらいの余裕のある距離感だ。

しかし隣の太陽様は違う。
対は彼にとって人生の全てくらいの勢いでそれはそれは情熱的に愛してしまっている。

基本的にメイン適応者と対は一つ屋根の下で一緒に暮らすので学校にいる時間以外はずっと一緒なのだが、彼の場合、学校で1年と2年の教室に分かれている事自体がもう不満ならしい。

朝は当然一緒に離れから登校、対の坊ちゃんを1年の教室まで送って行って、遅刻ぎりぎりまで粘って2年の教室に駆け込んでくる。

昼休みは校舎の違う2年の教室から1年の教室をはさんで反対側の中庭で友人達と食事をしている坊ちゃんに会いに行くため、毎日走りながら昼食がとれるようにとサンドイッチをくわえて走っていく。
もちろん、可愛い可愛い対の坊ちゃんには愛情たっぷりの凝ったランチを作っているのに…だ。
行き帰りの時間を差し引くと会えるのは10分弱。
その時間のために昼食を取る時間を惜しんで走る姿はもうある意味感動モノだ。

帰りももちろんチャイムと共に猛ダッシュでお迎え。
帰宅後は当然ずっとベッタリらしい。


もちろん…対の坊ちゃんに心を寄せるような輩がいたら即排除。
登校初日に即排除された1人が自分の対のメタ坊やだったりするのだが…実戦経験のないピカピカの1年生相手に、微塵も手加減なしに急所を思い切り攻撃して沈めてくれた。

もう今ではアントーニョ怖さに誰も対の坊ちゃんに声をかけるどころか近づくことすらできない。
可愛いとうわさ話をするのさえ命がけで、こっそり気づかれないように垣間見るのが関の山だ。

そこまで可愛くて可愛くて可愛くて仕方のない坊ちゃんと、例え着替える間の僅かな時間であろうと必要もなく引き離されたらこいつが思い切り不機嫌になるということに気付いておくべきだった…と、フランシスは後悔する。

しかし話はそんな程度では終わらなかったのだ……。



Before <<<    >>> Next 


0 件のコメント :

コメントを投稿