太陽の日常
「アーティが歌っとるっ!!!!」
と、いきなりガタっと立ち上がってアントーニョが叫んだのは、珍しく旧校舎で行われていた特別授業の真っ最中だった。
2年に進級して以来…いや、正確には対を手に入れて以来、こうしたアントーニョの奇行は珍しい事ではない。
対を手に入れて関係が上手くいっている適応者の間では対の行動が気になってしまう適応者はしばしばいて、それが奇行となってあらわれる者も長い間教師をやっていると何度も見ることになる。
ただそれは大抵は対と一緒になって数年…早くても1年以上はたって非常に馴染んだ後である。
こんなに…それこそ数日で共鳴してしまうのは非常に稀だ。
『トーニョは相手次第ではめちゃくちゃ早えかもしれねえぞ』
理事長にはアントーニョが太陽の適応者に選ばれた時点でそう言われていたが、あまりに早い。
その上、大抵の適応者は気づいてもそれを出さないように努力するものなのだが、アントーニョは隠すどころか、行動する。
今日も、
「……カリエド……今授業中なんだが……」
と、ガックリと教壇に手を付いて肩を落とす教師の言葉などまるで耳に入らないかのように、アントーニョはそのまま立ち上がって窓を全開にした。
窓際まで行って窓を開けて注意して耳をすませば、なるほど風に乗って綺麗な歌声が聞こえてくる。
「うあぁああ~~~!!!!かっわかわええっ!!!!」
叫ぶアントーニョに釣られてクラス中が窓に集まった。
「うあ…なんか回りキラキラしてねぇ?」
「あ、お前にもそう見える?」
「お前ら…幻覚かよっ。姫んこと好きすぎじゃね?www」
「いやいや、姫マジ姫だって!なんか俺らと同じDKに見えねえもん。」
「やんごとない感じするよなっ。」
「目とかマジでけえし…まつ毛とかもバッサバサでさ…」
いわゆる華のない男子校のことなので、毎回適応者の対が見つかると上級生たちは大騒ぎなわけだが、今回はもう一人夢の宝玉の対はヘタすれば自分達よりよほど体格の良いお子様ということもあって、月の宝玉の適応者の方への盛り上がりっぷりは実はすごい。
大人気だ。
おそらく高等部の二年生から大学までの学生の半数以上は一度お近づきになりたいと思っているだろう。
……ただし……
――親分のアーティに手出そうなんて事したら、楽には死なせへんで…?
と、宝玉のリングをはめた指先からボワボワと抑えきれない炎を出しながら、殺気をビシバシ放ちつつ言うパートナーの存在がなければ……の話だが……。
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