ローズ・プリンス・オペラ・スクール第五章_1

対の日常


視線を感じる……
ふっと振り向くと慌てて逸らされる多くの目。

まあ仕方ないことだ。
教室でアーサーは小さくため息を付いた。


今年はアルフレッドとアーサーがそれぞれ対に選ばれたが、どうやら風の石の対である緑の石の適応者は現れなかったらしい。

ゆえにアルフレッドとアーサーの二人が教室では好奇と羨望と…そして嫉妬の目で見られるのは仕方ない事だ。

特にアルフレッドは春休み中に高等部へ忍び込んで、アーサーは対面式の日ではあるものの、アントーニョに連れられて他より一足早く石に対面しているため、実は早い者勝ちだったのでは?などという噂もあって、視線が痛い。

以前は影で言うものはもちろん、面と向かって言う者もいて、そんな時はその都度ロマーノが

「あ゛ぁ?石は元々、高等部の敷地内にいる人間の中で、あるランク以上の魔力を持っている上でその属性の魔力が一番強え人間を適応者に選ぶんだよっ。
だから皆がまだ中等部にいる頃決まったジョーンズは知らねえが、皆が高等部の敷地内にいたアーサーの時の場合は、先に対面してたって適応者じゃなきゃ反応しねえんだよ、ボケっ!」

と、まあ祖父に聞いている説明を彼風の言葉にアレンジして言ってくれたわけなのだが、元々嫉妬という感情は理性的な物ではないのだから、論理的に説明されても、『はあ、そうですか』、と、納得出来るものではない。


アルフレッドの方はそんな時にはプスっと膨れたあと、

「いいよ、そうまで言うなら石無しで勝負しようじゃないかっ!」

と、力に訴えかけるが、皆、なんのかんの言って初日のアントーニョとの模擬戦闘の時の大剣を軽々振り回す姿が記憶に新しいので、黙りこむ。


一方でアーサーはなるべく聞かないふり、気にしないふりをしていた。
なぜかといえば…それでも聞こえて気になって落ち込むと……

ガタタッ!!!!
と、教室のドアが壊れそうな勢いで開いて

「アーティっ!!何か言われたん?!大丈夫かっ?!!!」
と、血相を変えたアントーニョが飛び込んでくるのだ。

そしてアーサーを抱え込むと、殺気立った目で教室中を一睨み…

――うちの大事なお姫さんにアホな真似しおった命知らずはどこのどいつや……

と、まあ…気の弱い者なら気を失いそうな迫力のある低い声で恫喝をする…。

「トーニョ、何でもないから。何もないからっ」
と、慌てて言うが引いてくれない。
石がリンクしているため、隠し事ができないのは、こういう時に不便だ。
自分の教室に帰らせるまでが一苦労である。

もちろん、本当に要因を作った人間を名指ししたなら、なぶり殺されそうな勢いなので、絶対に言えない。
かと言って理由を言わないと下手をすると心配だからと抱えて帰ろうとする。

こんな感じで学校が始まって一週間もすると、そのアントーニョの溺愛っぷりが広まって、誰も何も言えなくなった。

少なくとも教室内でそういう話をする人間は皆無だ。


それでもたまにジ~っと視線を送られている気がして振り向くと目を逸らされる…そんな事は教室、廊下、その他様々な場所であって、アーサーを少し憂鬱な気分にさせるのだ。

適応する石の通り本当に明るく輝く太陽を体現したようなアントーニョに自分が不似合いなのは、自分自身が一番良くわかっている。

元々人付き合いも良くなくて実兄達に言わせるとチンチクリンで…容姿も中身もダメダメなのに魔力だけは高い。

そのせいで対になんて選ばれてしまって、アントーニョには本当に申し訳ないと思う。

教室の隣の席には親友の双子の片割れ。
いつもニコニコしていて可愛らしいフェリシアーノ。

こいつだったら…好きになるヤツいっぱいいるだろうな…と思っていたら、本当にそうらしく、入学以来、よく知らない先輩に声をかけられ、時には交際を申し込まれるという。

さらに前の席の菊も大人しげでいつもニコニコと穏やかで優しく、きゃあきゃあ騒がれはしないものの、秘かに人気者だ。

ロマーノは…愛想が良くないのはアーサーと一緒だが綺麗な顔立ちをしていて、フェリシアーノと二人セットで色々誘われる事もあるらしい。

数少ない自分の友人達の誰しもが自分よりははるかに対に相応しく好かれているのを見て、本当に申し訳なさにため息しか出なかった。


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