ローズ・プリンス・オペラ・スクール第二章_6

こうして和やかに時間が過ぎ、やがてアントーニョが
「そろそろ寝よか。」
と立ち上がった。
そしてまた当たり前に引き寄せられて抱き上げられる。

なんでいちいち抱きあげるのだろう…と、ずっと思っていた疑問を口にすると、アントーニョはにっこり

――逃げられんためやで?
と、本気だか冗談だかわからない返答を返してきて、アーサーは言葉に詰まった。

普通に考えれば逃げるわけ無い。
だって相手は憧れの大スターなのだ。

本当に自分の夢の中でもなければ自分みたいなつまらない人間が側に寄ることなんて出来るはずもない相手だ。


…が、その距離がしばしば近すぎて居たたまれなくなって逃げたくなるのもまた事実で…


当たり前に降ろされたキングサイズのベッド…

そこにアントーニョも一緒に潜り込んできた時点でアーサーは再び硬直した。
もうあの廊下でアントーニョに出会ってまだ数時間なのに、パニックの連続である。

そんなアーサーにアントーニョはおかしそうにクスクス笑った。

「あ~なんもせんから安心し?
単にまだ他にベッドないねん。
どうしても寝れへん言うんやったら、親分ソファで寝たるけど?」

と、最後は少し笑みを消して気遣うように顔を覗きこんでくるのに、アーサーはさすがに首をブンブン横に振る。

「いや、カリエドさんの部屋なんだし、俺の方がソファに寝ます。」

アーサーがめいっぱい本気でそう言ったら、

「アホな事言わんといて。」

と、アントーニョは真剣な顔でそう言って、半身起こしたままのアーサーを半ば強引にベッドに横たわらせると、上からフトンをかけて押さえ込んだ。

「かわええお姫さんソファに寝かせて自分がベッドに寝る言うアホがどこにおるんや。
あとあれや、カリエドさんはあかん。」

「…アントーニョ……さん?」
「う~ん…そうやな、トーニョって呼んだって?さんもつけたらあかんよ。」
「でも…」
「どうしても呼べへん言うんやったら、呼びたなるくらい親しくなれるようにしたってもええけど?」

さすがに先輩を愛称+呼び捨てするのに抵抗を見せるアーサーだが、そこでアーサーを押さえつけたままのアントーニョの目が不穏な色を帯びるのに、思わず空気を読んでコクコクとうなづいた。

「トーニョ…とりあえずもう遅いから…。」
「そうやね。寝よか。」

アーサーの言葉に気を良くしたのかアントーニョはすぐ機嫌を直して明かりを消すと、自分もゴロンとベッドに横たわった。

…というような夢を見ていたはずなのだが……


「アーティ、朝飯作ったったから、そろそろ起き?」
と、額に落とされる口づけの感触と美味しそうな朝食の匂いが妙にリアルだ。

おそるおそる目を開くと、そこには消えること無く確かにいるアントーニョ。

「おはようさん。よう寝とったな。」

夢じゃない?!夢じゃない、夢じゃない、うあああぁああ~~!!!
全ては現実だったのか…。
それともまだ夢を見ている??
もうどうして良いかわからない状態で硬直するアーサーに

「まだ寝ぼけとるん。しゃあないなぁ」

と何故か嬉しそうな声でそう言うと、アントーニョは、あ~んとアーサーの口元にスプーンを運んだ。




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