手をつかむのは…
確か童話であった気がする…。
二人の母親の前に一人の子ども。
双方が本当の親だと主張して子どもの手を引っ張り合う。
両側に腕を引っ張られて痛いと泣く子どもに、本当の母親は可哀想になってつい手を放してしまうが、それがまさしく親の愛、本当の親の証拠だとして、手を放した母親の方に子どもは引き取られていく。
そんなのはただのお伽話だ…と、アントーニョは思った。
――大事なモノからはどんなことがあっても手を放してはならない…。
「なあ、どう見てもこっちのほうがようけ光っとるやん。
この子は親分の対やで?諦めたって?」
グイっと混乱するアーサーの肩を引き寄せたまま、アントーニョは自分を睨んでいる悪友を睨みつけた。
朝起きると腕の中にはホワホワと柔らかい温かさを感じる。
ああ…親分のお宝ちゃん、かわええなぁ…。
真っ白で細くて金色でキラキラしてて…今は白い瞼の下に隠れているがまるでキャンディのようにコロッコロにまあるく澄んだ綺麗なグリーンの瞳をしているのだ。
少しびっくりさせるとすぐその大きな瞳をウルっとさせてしまうあたりが、めっちゃ守ってやりたい感じである。
本当に昨日は可愛かった。
軽くチュッと口付けただけで倒れそうになってしまって、それは支えてやったのだが、次の瞬間大きな目からぽろぽろと水晶のような涙がこぼれ落ちた。
嫌だったのかと思えば、返ってきた返事が
――びっくりした
で、聞いてみれば初めてのキス。
もうそのまま押し倒して全部を奪ってしまわなかった自分の理性を褒めてやりたい。
風呂に入ろうと言えば真っ赤になったまま涙目でしゃがみこんでしまうし、料理を作ってやれば今度はキラキラと目を輝かせて幸せそうな顔をする。
初心ではにかみ屋で…でも感情豊かで可愛らしい。
こんなに可愛い生き物にはいまだかつてお目にかかった事がなかった。
最初に幼げな可愛らしい容姿に一目惚れ…そしてその後、あまりに可愛らしい初心な性格に二目惚れだ。
知れば知るほどドンドン惹かれていく。
たった半日弱ですっかり心を奪われてしまったのに、この先卒業まで7年間も一緒にいたら自分でもどうなってしまうのだろうと思う。
「これからはずぅっと親分が守ったるからな。大事な大事なお宝ちゃん」
アントーニョはそう言ってちゅっとアーサーの額に口付けると、美味しい朝食を用意するためベッドを抜け出た。
こうして作った朝食は当然トレイに乗せてベッドまで。
幸せそうに眠っているのを起こすのは忍びないが、今日は新入生が宝玉と対面する日なので、さっさと月の宝玉をもらってこなければならない。
「アーティ、朝飯作ったったから、そろそろ起き?」
と、優しく声をかけて、寝ぼけ眼の宝物を起こした時は、何の問題もなく午後にはまた戻ってきて、寝足りないようなら一緒にシェスタに誘えるものだと、アントーニョは微塵も疑ってはいなかった。
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