当たり前に脱衣室まで運ばれて、上着に手をかけられたところで、アーサーはようやく我に返ってその手を止めた。
「ちょ、待ってっ!!何して……」
「何て…風呂に入れたろ思うて…」
焦るアーサーに当たり前にそう答えるアントーニョ。
入れるって…まさか一緒に入るつもりか?と聞けば、当たり前やん、洗ってやりたいし…と返って来て、アーサーは思わず自分で自分を抱え込むように両手を身体に回すと、そのまましゃがみこんだ。
わかってる…同性なわけだし、こんなふうに意識する方がおかしい。
でも絶対に無理だ…羞恥で死ねる……
もうどうしていいかわからなくなって、緩いと自覚のある涙腺がまた決壊した。
「あ~、もうしゃあないなぁ」
と、そこで頭上から降ってくる苦笑。
「ホンマこんな初心なお姫さん、親分以外の奴やったら大変なことになってそうやな。」
自分もしゃがみ込むアーサーの前にしゃがみこんでそう言うと、アントーニョは優しく笑いながら頭をなでる。
「頭だけ洗ったるから、湯船入ったらこのベルで呼んだってな?」
と、可愛らしい小さなガラスのベルをアーサーの手に握らせると、アントーニョは脱衣室から出て行った。
優しい……。
こちらは怖そうだと思っていたのに思いがけず優しかったギルベルトとは反対に、全く思っていた通りの人物だ…と、アーサーは思った。
結局軽く身体を洗った後湯船に入り、温まる間に髪を洗ってもらって風呂を出ると、いつのまにか用意してくれていたらしい夕食を食べる。
これがもう信じられないことにアントーニョの手作りだというのだが、ありえないほど美味しい。
宝玉に選ばれるほどの潜在能力の持ち主で、容姿が良くて強くて声も良くて性格が良くて…しかも料理もプロ級…。
神は二物を与えずなんていうが、いったい何物与えているんだ…と思う。
食後のデザートまでしっかり堪能したあとは居間に移動して、アントーニョが新作の台本を見せてくれる。
――これ…自分も明日あたりもらう事になるけど、少しみとき?
と、渡された台本は同盟によって婚約する事になったのだが双方一目で恋に落ちた王子と姫が、同盟の破局で引き裂かれて命を絶つも、最後は生まれ変わった来世で相手をみつけるというラブロマンスだ。
台本には当然しっかりラブシーンもあって、うあぁああ~~と真っ赤になるアーサーを隣でゆったりとソファに座ったアントーニョがくすくす笑う。
「はよ、親分に慣れたってな。」
と、髪を一房手にとってチュッと口付けるのが妙に様になっていて、本当に自分なんかがこの大スターの対なんだろうか…と、アーサーは結構本気で思った。
いや…まあ夢なのだから本当ではないのだが、あまりにリアルすぎてしばしばこれが夢であるという感覚がなくなるのだ。
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