融解
目を覚ました時イギリスが見たものは懐かしい顔…。
褐色の肌に無精髭…昔々、まだほんの小さな頃に気まぐれに愛情を与えて消えていった大国…。
ローマ帝国……一瞬そう思ったが、それにしてはいつもの豪快な明るさがない。
線も彼の国にしては若干細い。
ああ…違う…こいつは……
「…スペイン……なんで?」
自分のものとは到底思えないほど掠れた声に、思い切り隈を作った顔をゆがませて、イギリスの恋焦がれたエメラルドから涙が零れ落ちた。
――…堪忍……でも…嘘やない……好きやって…愛してるっての…嘘やない…
嗚咽に飲み込まれる言葉。
何故か嘘だと思わなかった。
慣れてしまったあとでは感情の変化は感じ取れなくても、悪意の嘘を見抜くのは不得意ではない。
一緒にいた9日間のスペインの感情は嘘ではなかった…。
冷静になった今ではそれがわかる。
どれだけ自分が思いを寄せられていたのか…今どれだけスペインが傷ついているのか…
いつでもどんなことでも笑顔で乗り切ってきた打たれ強い太陽の国が、今、自分の一言で容易に壊れてしまうことをなんとなく感じた。
そして…身体のあちこちにまかれた包帯がそれを裏付けるように目に飛び込んでくる。
感情を全て明け渡してしまうのはまだ怖い。
それでも…すでに自分に対してそれをしてしまっている恋焦がれた相手に、いずれ遠くない将来、自分もそうしてしまうのだろうというかすかな予感をイギリスは感じていた。
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