エピローグ
――結局な、スペインはお前にOKもらったって話、俺らにしてねえんだ。
それからさらに1週間後、まるで他から隠すように抱え込むようにしてスペインに自宅へ連れ帰られたイギリスに、プロイセンがこっそり電話をかけてきた。
一応かなり責任を感じ、また心配をしていたらしい。
一連の話の流れを説明したあと、おそらく渡英のあたりまでは覚えていたその罰ゲームとやらは、何かのスイッチが入ってイギリスの事を好きだと自覚した瞬間、スペインの脳裏から綺麗サッパリ消え去っていたのだろうと、プロイセンは言った。
そして、本来だったらすでにOKをもらってクリアしているはずのゲームの報告をすっかり忘れていた事がそれを裏付けるだろうとのことだ。
ああ…確かにそう言われればそうだ。
フランスはスペインとイギリスがすでに付き合い始めた事を知らない口ぶりだった。
プロイセンのメールはその後、イギリスが車に轢かれてからのスペインがどれだけ大変だったかに移る。
初日に自分を刺しまくってからは危険物は取り上げたので自傷行為は止んだものの、何も飲まず何も食べず、睡眠も取らない。
元宗主国を心配して様子を見に来たロマーノがその姿に怯えて逃げ帰る程度には正気を失った様子をしていたとのことだ。
まあ…普通に考えれば大げさな物言いに思えなくはないが、あれからの恋人の様子を見れば、それが必ずしも誇張したものではないことがよくわかる。
あれから号泣しつつ、恋人は自分に言ったのだ――これからナイフを持ち歩いてくれ――と。
そして自分に何か腹がたったのならそれで自分を刺してくれ、二度とイギリス自身を傷つけるような真似はやめてくれ…と。
――こんなん…自分の体中切り刻まれるよりよっぽどつらいわ…。
力なく泣きながら点滴の管のついたアーサーの手をにぎる褐色の手には白い包帯。
それがよもや自分で自分のあちこちを刺しまくった結果だとはその時は思わなかったが、スペインが心身ともに衰弱仕切っていることだけはなんとなく感じた。
自宅に戻ってからも一瞬足りとも離れるのを怖がる恋人のおかげで、イギリスは長期休暇を取ってスペインの自宅で過ごすはめになった。
そこでもう蜂蜜のように甘い恋人にどっぷり浸からされている。
本気でおはようからおやすみまできっちり甘く世話をする恋人の
「もう絶対に親分から離れたらあかんよ」
の言葉と紡ぐ声音には少し狂気じみたレベルでの執着の色が見え隠れするが、そんな相手にホッとする自分も似たり寄ったりで、まるでお互いがお互いのためにあつらえたようにお似合いのカップルなのだろう…と、イギリスは初めて他人といることに安堵を覚えた。
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