雪解け
――はぁ?俺達は3人兄弟だ。テメエみてえな異分子知らねえよっ
寒さにかじかむ手、冷たいを通り越して痛みさえ感じるほどの冷気に震えながら訪ねて行ったイングランドに向けられたのは、気温よりもさらに冷ややかな視線だった。
それと同時に飛んでくる矢を必死に避けながら、元来た道を泣きながら逃げる。
涙で滲んでぼやけた視界で前を見つめると、そこには光り輝くお姫様のように綺麗な少年。
イングランドは彼を知っていた。
意地悪な事も言うけれどいつもお菓子を持ってきて、なんやかんやで仲良くしてくれていた隣国。
凍えた心にはその姿がとても嬉しくて伸ばしかけた手…。
しかし、反射的にサッとひっこめれば、手を伸ばしたあたりには、剣の刃。
――ずっとお前を征服したいと思ってたんだ
いつもは口では意地悪を言っても優しかった笑みが、今は言葉と同様意地悪い空気を放っている。
イングランドはその隣国からも逃げた。
逃げているうちに何故か手足は伸び、視界も高くなる。
気づけば森を抜け出ていて、その先に広がる草原…。
そこには青空の色の瞳をした可愛らしい幼児が笑顔で自分に向かって手を伸ばしていた。
ああ…自分を受け入れてくれる場所はここにあったんだ…。
イングランドはイギリスとなって草原をかけていく。
そこで抱き上げようとした途端、子どもは消え、土砂降りの雨が降ってきた。
――俺は君から独立するよ
銃を突きつけ、冷ややかにそう宣言する青年。
イギリスはその場に膝をついた。
逃げても逃げても結局同じなのだ…。
所詮自分は誰にも望まれない…誰にも愛されない存在なのだ。
ぽつり…ぽつりと頬を濡らす雨は、どうやら自分の涙だったらしい。
それを自覚した直後、温かい何かが頬を滑り、涙を拭っていく。
パチリと目を開けたら、深いエメラルドの瞳が心配そうにイギリスの顔をのぞき込んでいた。
「怖い夢でも見たん?…今起こそうと思っててんけど…」
柔らかな…労るような声音に心がズキズキ痛む。
「お菓子…くれたんだ…。
綺麗なモノも…いっぱいくれた…。
優しいと思った…。
でも…違ったんだ…。
俺を好きなわけじゃなかった…。
でも俺は嬉しかったから……俺がいっぱいあげられるようになったら、好きになってもらえると思った。
いっぱい…欲しかったモノをいっぱいあげた…。
けど、ダメだった。
俺は誰からも愛されない…。
居ない方が良かった…のか?」
じわりとまた涙が溢れでて視界がにじんだ。
救われたいのかトドメを刺されたいのか自分でもわからない。
ただ苦しくて悲しくて、何かを吐き出したくて、イギリスは目の前の神に愛された太陽の国に審判を仰いだ。
“愛が欲しい”
まるで子どものように真っ直ぐに純粋に…目の前のペリドットは訴えていた。
その強い想いに心を射抜かれた気分だ。
――みんなが居ない方がええ言うなら…みんなの前から居なくなったらええわ…。
その目をまっすぐ見据えてそう言うと、ペリドットが絶望と安堵という一見相容れない感情が交じり合った色を浮かべる。
ああ…この瞳が魂が、この世に執着する全てを一旦無くしてしまえば良いのに…そうしたら…空っぽの心を自分の愛情だけで埋められる…。
この子の飢えた心は、自分にとってはこの世で最も危険で最も甘美な麻薬だとスペインは思った。
そしてスペインは全てを諦めたようなペリドットを捉えて、自分が出来うる限り最も優しい笑みを浮かべる。
「そしたら…親分が全部もらったる。
自分の悲しさも寂しさも、全部親分にぶつけたらええ。
自分が全部くれる言うなら、そういう辛い気持ちも含めて全部愛したるよ?」
そこでスペインはここ数日繰り返してきた口づけを、初めて頬ではなく戸惑いに震えるその小さなピンクの唇へと施した。
「親分は…いったん愛情を向けて向けられた相手を突き放したりは絶対にせえへん。」
触れるだけの口づけのあと、そう言って、また今度は深く口付ける。
それをイギリスは拒まなかった。
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