ぺなるてぃ・らぶ_5

イギリスさんの動揺


スペインは絶対にイギリスを殺そうとしている…と、イギリスは思う。

アメリカの独立記念日前後の体調不良でイギリスが強く抵抗できないのを良い事にスペインがイギリス邸に居座って3日。
体調は確かに回復にむかっているものの、イギリスは息も絶え絶えだ。
主に…心臓のあたりが虫の息な気がする。


「アーティ、起きや。ご飯やで~」
唯一の安らぎである睡眠は、朝、ベッタベタに糖分過剰気味な声と頬に贈られるキス、そして、不本意ながら空腹を誘う美味しそうな朝食の香りによって奪い去られる。


初日…この一連を無視していたら、

――こんな時どないしとるんか、癪やけどフランスに聞くか…
などと不穏な言葉が聞こえてきたので慌てて起きた。

弱って色々が不用意になっているところになんとスペインが来てしまった今、自覚して数百年間隠し続けたささやかな恋を万が一にでもあの忌々しいクソ髭に知られてからかわれるのだけは真っ平御免だ。

そんなイギリスの心情を知ってか知らずか、イギリスが何か無視したりすると、スペインの口からはフランスを…という言葉が出てくるので、もう強く出ることが出来ず、この3日間、されるままになっていた。

それを良い事にこのラテン男は、イギリスが起きるとまず熱を計ると言い、イギリスの額に自分の額を押し付ける。

おいっ!近いんだよっ!
てめえ自分の甘く整いすぎたマスクを自覚しろよっ!!
俺はその顔が昔から好きすぎるんだからなっ!!
熱計るために俺の心臓が止まったらどうすんだっ!!
本末転倒だろっ!体温計使えっ!!!
…そう言えたら…と毎日思うのだが、実際はテンパりすぎて、真っ赤な顔でパクパクと口を開閉することしかできない。


そんなイギリスを見て

――まだ熱あるんかいなぁ…顔赤いな。

と、あの小さな頃から憧れた、日に焼けた大きな手で頬をなでられた日には…本気で死にそうな気分になる。

自分の心臓というのが思いのほか丈夫に出来ていることにこの時ほど感心したことはない。
普通程度の丈夫さなら絶対にもう止まってしまっているはずだ。

そしてその後…持って来られた時は確かに美味しそうな匂いに惹かれていたはずの食事も、本当に嬉しそうな顔をしたスペインに、あ~ん、と、匙で口に運ばれた日には味なんか全くわからない。
わかるわけがない。
夢に見過ぎたそのイケメンスマイルだけでお腹がいっぱいである。

庭や外に出て少し距離を置こうにも、まだ顔が赤いから熱があるといって出させてもらえない。

どうしてもベッドから出たいなら…と、居間のソファなら許してもらえるが――実際、自分の家でなぜ許可が必要なのかはわからないわけだが…――そうすると大抵横にピッタリとスペインがくっついていて、あの長い指でイギリスの髪を弄んだり、つむじに口づけを落としたりと、やたらと構ってくるので、刺繍をしていても本を読んでいても集中出来ない…どころか羞恥で死にそうになる。

そしてトドメ…
おやつの時間になるとイギリスを膝上に抱き上げて、あ~ん、だ。

馬鹿か?馬鹿なのか?!
幼児やレディならとにかくとして、23歳の可愛くもない男を抱き上げて、何があ~んだ!

それでも食べるまで繰り返すので仕方なく口を開けると、

――ああ…ほんま自分かわええなぁ…

と、本当に愛おしげな目で微笑むのだ。


馬鹿かっ!俺は可愛いんじゃないっ!カッコいいんだっ!!
と、そこは断固として訂正をすると、スペインは端正な顔に少し驚いたような表情を浮かべて…それから破顔するのだ。

――ああ、ホンマや。かわええし、かっこええなぁ、アーティは。

それはまるで子どもの戯言を受け流す大人のようで…甘やかし、許容する大人っぽさがカッコいい。
もうやめてくれっ!俺のライフポイントはとっくに0だっ!とイギリスは思う。

弱った身体に心に甘い甘い毒が回っていく。
どんどん心が今の状態に慣れるように引きずり込まれていくのがわかる。
まるで底なし沼のようにズルズルと……

今この瞬間は心地よいが、やがてそれを取り上げられて起こる禁断症状が怖い。

――優しくすんなっ!ばかぁ!!」
と、グズグズと鼻を鳴らしながら泣くと、スペインは困ったように笑って

――こんなに愛おしいお姫さんに優しくせんなんて無理やわぁ。
と、チュッとイギリスの頬を伝う涙を吸い取るように頬に口付けるのだ。

どうせ嘘のくせに…という気力がどんどん削られていく。
あとで傷つくのがわかっているのに受け入れたくなる…。

優しくされればされるほど怖くて不安で、怖い、怖い、と泣くと、スペインは全くわかってなくて

――怖ないよ?親分がおるから…なにからでも守ったるから怖ないよ…

と、頭をなでながら頬に口づけを繰り返すのだ。

ああ…わかってない。本当にわかってないんだよ、ばかぁ…、



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