パイレーツ!番外_3(完)

――商売…始めたらいいんじゃないか?
愛しい愛しいあの子がそう言ったのは、夜、船の甲板で流れ星を見ている最中だった。

その日は襲った商船から回収出来たのはなにやら大量の香辛料のようなもので金銀財宝とは程遠く、箱ごと甲板に出しっぱなしにしていたのだが、それをどう処分しようかと思っている事を話すと、アーサーが教えてくれた。
それは貴族の間では重用されている東方の国でしか取れない香辛料で、黄金と同じくらい価値があるらしい。

捨てるなんてとんでもない…と言うので、その手の商売的な事は自分は疎いが、そう言えば船から出て行ってしまったあの子達はそういうのに詳しかったなぁ…などとふともらしたら、言ったのだ。

海賊としての腕っ節はこんな狭い海域で使わず、未知の海を開拓するのに使って、商品になりそうな物を探し、この海域での商売は従兄弟の双子に任せたらどうか?と。

そして双子がボスにと思っていたあたりはそちらの仕事に、他は一緒に未知の土地に商品探しに行く旅に同行させればいいのでは?というその意見は、随分と魅力的に思えた。

もう一度…一緒には暮らせなくてもあの子達と何かを共有出来る…家族としてつながる事が出来る…。

兄弟のように大切な従兄弟達とつながりを持ちながら、愛しい子と7つの海を旅できる…ああ楽園やなぁ…と、顔をほころばせるが、ふと気づいた。

最近…というか、自分が気付かなかっただけでずっと体調がよろしくないらしい…あまり丈夫でないアーサーをそんな旅に連れていけるのだろうか?
今日だってアントーニョが襲撃を終えて血を洗い流して慌てて部屋に帰ると、このところそうじゃない時の方が珍しいのではないだろうかと思われるほどよく出す熱をやっぱり出しているらしく、赤い顔で潤んだ瞳でソファで刺繍をしていたので、慌ててベッドに寝かせたのだ。

この子を無くしたら自分も死んでしまうと思う。
この子は自分の命だ。
神様にだって渡してやる気はさらさらない。

だから慌てて医者のギルベルトを呼ぼうかと反転しかけたアントーニョの服の裾をきゅっと握る手…。
熱のため潤んだ目で、まるで『行かないで』とでも訴えているような様子に、アントーニョはハートを鷲掴みにされた気分だった。
愛しくて愛しくて気が狂いそうだ。

思い切り抱きしめて体中余すことなくキスを落としたい…。

もちろんそれを実行したのだが、そうすると、すでに手折って随分たち、日々身体を重ねている仲なのに、まるで初心な少女のように羞恥に身を固くするのが可愛すぎて死にそうだ。

初めは無理矢理だったので抱いていてもどこか壁を作られている感じだったのが、最近は少し気を許してくれてきたのか、柔らかく受け入れてくれるどころか、可愛らしく啼きながら求めてきてくれる。

抱き潰してしまわないように理性を総動員しないと弱っている身体にトドメを刺してしまうかもしれないので、激しく求め返したいのを必死に堪える日々は、少し辛いが幸せだ。



「アーサーさん…何してはりますのん?」

気づけば寒くないようにと二人で何重にもくるまった毛布の下で、何かゴソゴソ動いている。
それに気づいてそう聞くと、可愛らしい最愛の子は大きな丸い目をいたずらっぽく輝かせながら、ニッコリと…

「ん~?ナニを刺激してる。」

などと可愛らしいのだが困った発言をしてくれる。

いやいや、普通にこうやって密着してるだけでも意識すればやばいと、一生懸命、積み荷や星空の方へと注意を向けるようにしていたのに、なんということをしてくれるのだか。

可愛いのだが凶悪だ。


「あの…ほんまやばいんやけど。
襲ってまうって。」

「…別に襲ってもいいぞ?」

上目遣いの威力は強力。
しかしここで誘惑に負けたら、本当に抱き殺してしまう事になりかねない。
そんなことになったら絶対に後悔する。

最近そんなアントーニョの忍耐力を試すのが、可愛いこの子のお気に入りの遊びらしく、しばしば同じような事をされている。


誘惑に負ければ天国が待っている。

自分で誘っておいても実際にされれば羞恥が勝つのか、まだ抱かれる事に慣れないのか、始めてしまえばまるで処女のように恥しそうに声を堪えながら、それでも堪えきれずに泣きながらもらす嬌声が可愛すぎて、いつしか理性をなくして貪り続け、その後ぐったりと気を失い身動き一つしないアーサーに、心の底から肝を冷やすのが常だ。

その瞬間は毎回自分の理性のなさを死ぬほど呪う事になる。

自分が手折るまで未経験だったせいもあって、今自分を刺激している手はとても巧みとは言えない拙い動きなのだが、その慣れてない様子がむしろ可愛すぎて逆に興奮させられる。

今日はあとで絶対に死ぬほど後悔するパターンに陥りそうだ…と、それでもアントーニョは無駄な努力を少しだけ続けてみるのだった。






結局…ギルベルトのお墨付きを得て、アーサーも旅に連れていけるという事になって、ロヴィに連絡を取り、体制を整え、必要な人間を雇い入れ補充して、その中にはギルベルトの恋人らしい女性もいたりして…。

その女性に何故か要らない(いや、要るのか?GoodJob!と叫ぶべきなのか?)知恵をたくさん付けられて、今でも可愛すぎて死にそうな愛しい恋人は、世界の小悪魔と心の中で思わずには居られないくらい色っぽく可愛く育ってアントーニョに幸せな悩みを増やさせるのだが、それはまだ少しばかり先の話である。






0 件のコメント :

コメントを投稿