狂愛――ラプンツェルの反乱前編_1

プロローグ


プシュっとかすかに空気が抜けたような音と共に、若い男が額を赤く染めて床に倒れ伏した。
寄りそうように男にしがみついていた女の声にならない悲鳴。
しかし、次の瞬間には女の方も同じ状態で男に折り重なるように床に転がる。

標的の素生や依頼された理由は聞かない。
ただコーディネーターから渡された相手の居場所と顔だけを見て、黙々と仕事をこなす。
それが裏界隈ではちょっとばかし名の売れている殺し屋、アントーニョ・ヘルナンデス・カリエドのやり方だった。


今回のターゲットはロンドン郊外のとある家に住む若い男女。
いつものようにコーディネーターから渡された住所と顔写真を確認し、いつものように愛用のやや古い型式のリボルバーにサイレントサプレッサーを付けて、いつものようになんの感慨もなく引き金を引き…そしていつものように去る予定だった。

そう、そういう予定だったのだ。
全てはいつものように……。



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