お兄ちゃんに任せなさい_7

当初はイギリス邸で生活の予定だったのだが、なんとなくドイツも巻き込まれたそうだったので、今回の会議の開催がドイツだった事もあり、結局ドイツの家に滞在している。

ムキムキの男2人で暮らしていた家に1人華奢で愛らしい妹がいる。
それだけで家が一気に華やいだ雰囲気に包まれる。


「ドイツの子も良いなぁ~。
シュタイフのティディ可愛い~」

買ってやったクマを抱きしめながら家中を歩きまわる少女。
可愛い。実に可愛い。

「あ、ご飯の支度手伝う~」
と言うのだけは頂けないが、そこは素で
「お前のこの小さな手に火傷や傷を作るのは俺が嫌なんだ」
と、悲しげな顔をするドイツにほだされて諦めてくれる。

それにグッジョブ!と思いつつ、でもフリフリのエプロンでちょこまかする妹は可愛いので、プロイセンは
「イギリスの仕事は味見な~」
と、ソースの乗ったスプーンを差し出す。

「ん~~。美味しいっ!」
と、ぱくりとそれを小さな口に咥えて、そう言って笑う妹の可愛らしさプライスレス。
スペインの言葉ではないが、楽園はここにあったという感じだ。


女の子だからなのか…と思えばそういうわけではなく、イギリスは元々ティディベアも大好きなら可愛いモノ全般も好きらしい。

しかも趣味は手芸。
プロイセンがドイツと一緒に筋トレをしている横で、チクチクと器用に刺繍を刺したり、レースを編んでいたりする。

容姿的には確かに少女だから絵になると思わないでもないのだが、考えてみれば何度も言うようだが髪の毛と眉毛を除けば、若干背が低くなる程度で、ムキムキの2人にとってはほんの少しだけ華奢になった女性体と元の男性体の差は、本当に誤差の範囲にしか思えない。

…ってことは…イギリスってもしかして可愛いのか?
と、そこでプロイセンは今更のように気付いた。

そう言えばやたらと美意識美意識うるさいフランスも「顔だけは可愛いのに」と常日頃から言っているし、子どもが若干好きすぎるペド疑惑のあるスペインがやたらと絡んで悪態をつくのも、実は好意の裏返しである事はうすうす気づいていた。

とすれば、なるほど可愛くてもおかしくはない。

…お兄ちゃん?
と、見あげてくる大きな目にきゅんと来るのは、きっと東の島国の言うところの“萌え”というやつなのだろう。

最初の頃こそ慣れない様子でオズオズと…しかし日を追うごとに少しずつ懐いてくる様子は、まるで人慣れない野良の子猫がすこしずつ気を許して来るような感じで実に可愛らしい。

それでもたまにまだ上手に言えなくて、ぎゅっとプロイセンの服の裾を握ったまま俯いてたりする事があって、自分は自他共に厳しい人間だと自負していたにもかかわらず、そんな時はもう自分の方から動いてやってしまうくらいには、本当に妹にはまっている。

ただただ可愛い下の身内を甘やかすと言うのは、本当に楽しい。
ドイツも同様のようで、仕事帰りには土産物を買って帰ってくるのが楽しみになっているらしい。


1週間…それはそれは楽しく過ごした最後の夜……

「お~、こんなとこにいたのかよ、可愛いお姫様は」

姿を見かけないと思って探したら、可愛い妹ちゃんは一番大きなティディを抱いて、バルコニーで泣いている。

「で?なんで泣いてんだよ?お兄ちゃんに話してみ?」
と涙で濡れた頬にちゅっと口づけてやれば、グスっと鼻をすすりながらの上目遣い。
そう、この1週間ですっかりメロメロの骨抜きにされた妹ちゃんの必殺技だ。

「だって…」
「だって?」
「今日で…最後だ」
「あ?何が?」
「プロイセンが…」
「はあ?俺様?まだ死なねえぞ?」
「ちげえよっ!!そうじゃなくて、プロイセンが兄でいる最後の日だろっ!!」
「あーそっちか」
「そっちだよっ!!」

ぽこぽこ怒るイギリスが可愛くて、ついつい笑ってしまう。

「いいじゃん。別に明日になったってお兄ちゃん言ってれば」
「だって俺、元に戻るんだぞ?」
「おう。だから妹から弟になるだけじゃね?」
当たり前に言うプロイセン。

そう、もう可愛いし、たぶん男になってもそう変わらないと思うし?
今更以前の距離には戻れない気がする。

「…そういう…ものか?」
「おう、そういうもんだろ?」
「…そっか……そう…か」

口の中でもごもご言いながらふんわりと浮かべる笑みが本当に愛らしい。

「俺様もいまさら前の距離には戻れねえしな。
いいんじゃね?
アルトが忙しい時には俺様がアルトの家に行くし、そうじゃない時はヴェストと3人でここで暮らせば良い。
な?そんなに泣くような事何もねえだろ?」
と頭を撫でてやると、コクコクと頷くイギリス。

「だからまあそうだな…明日までは残り少ない女の時間を堪能しろよ」
「…そっか…女ならではの時間……」
「そそ、女ならではの時間だ」
「うん、わかった。じゃあプロイセン、えっちしようっ!
「はああ???」

さっき泣いたカラスがなんとやら、キラキラとした目で見あげながらそんなとんでもない事を言ってくるイギリスに、プロイセンは手のひらをイギリスに向けてぶるぶると首を横に振った。

「ちょ、なんでそうなる?!」
「ん~、だってドレスも着た。可愛いお店も堪能したし、あと女じゃないと絶対にできないのって、そのくらいだろ?」
「いやいや…えっと…それはそうだけどな?
そういう事は好きな奴と……」
「もう明日には戻っちまうし、処女がもったいなくね?
「………」
「失くしても明日には男に戻るんだから無問題だし…?」
「………」

――私じゃ…だめ?お兄ちゃん…
うるる…と大きなグリーンアイズに見つめられた瞬間に、プロイセンの中で何かがぷつっと切れた。
…主に理性的な何かが………

その夜…イギリスの部屋では、実に背徳感あふれる雰囲気の嬌声が響き渡る事になった。


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