リトルキャッスル後編_アンアサ_4

こうして宿の裏側、遺体発見現場を目指す3人。

「俺ら…疑われてます?」
先に立って歩くギルベルトにユージンが声をかけた。
それに対してギルベルトは
「いや」
と首を横に振った。

「実は…一番犯人の可能性が低いと思ったのがユージンとリックで…ユージンの方が率直なとこ話してくれそうだったから連れ歩く事にした。」
他には言うなよ、と、念を押した上で本音をもらすギルベルトにユージンは嬉しそうにうなづく。

「もうなんでも聞いて下さいっ!もしかして捕り物っすか?」
良くも悪くもよくしゃべりそうだな…と、その様子に内心ため息をつくギルベルト。
それでも裏に回る道々話を聞く事にする。

「マイクとダニーの共通点と、その二人とお前とリックの二人との相違点はなんだ?」
その質問にユージンは即答。
「マイク達は良い塾行っててまあ頭良くて、俺とリっちゃんは馬鹿っす。」
その答えにアーサーが思わず小さく吹き出した。

「ああ、計西会か。まあ…良い塾行ったからって賢いとも限らんけどな」
「あ~でもあそこ入るのにテストいるしっ。入ってからもテストでクラス分かれるらしいっすよ。
ダニー一回クラス落ちちゃって親にマジ怒られて、上のクラスの奴をマイクと一緒にボコって戻ったくらい厳しいらしいっす。」
何かひっかかった。
「そのボコった相手の名前なんかわからないか?」
ギルベルトが聞くと、ユージンは首を振って苦笑した。
「俺はその塾行ってるわけじゃないしっ。あ~でもなんだかそれで相手骨折ったかなんかで、ボコった事バレたらマジヤベ~とか言ってたっすね。でもまあバレる前に相手なんか飛び降りたとかで…」

計西会の自殺…フランの家庭教師のクラスか…。
あとで確認する事リストとして頭の隅にその事を残しつつ、ギルベルトはマイクの遺体の場所まで到達した。

ビニールシートを取ってもう一度遺体を確認し、その前で両手を広げてみる。
おそらく…フランが昨日みたのはこれだろう。
あれは確か…午後11時48分。犯行推定時刻内だ。
これが空を飛んでいた?
ギルベルトは上を見上げた。
舞い散る桜吹雪はペンションまで軽く飛ばされているが、ペンション側からこれを落としたところでこんな所まで飛ばされてくるはずはない。
風が強ければ2階建てのペンションの一番上、見晴し台まで桜の花びらは余裕で飛ぶが、この重さの物だ。
逆にあの見晴し台からでも、ものすごい怪力の人間が投げても無理だ。

「これ…魚にみたてた殺人とかなんすかね…。なんかドラマみたいっすね。」
ユージンが気味悪そうに少し離れた場所で遺体に目をやって言った。
(…魚か…)
確かに網の中には無駄に数尾の魚が遺体と一緒に包まれている。
まあドラマとかなら見立て殺人とかよくあるわけだが、実際の殺人なんてそんなドラマティックな物じゃない。
前回の時もバラバラに切り刻んだ衣服が散乱してるなんて奇行とも取れるような状態だったが、実はちゃんと意味があったわけだし…。
とすると、これも?
ギルベルトはもう一度遺体をよく見てみる。

…普通に網と魚を使った意味はなんなんだろうか…。
魚に見立てるなら…濡れていてもいいはずだが、遺体は濡れていない。
あのゴムボートだと二人のるのはかなり辛く沈まない様に気をつかうし、むしろ網にいれていて魚に見立ててるなら濡れてても構わないはず。
自分がボートにのりつつ、遺体は湖に放り出した状態で網の端を持ちつつ引っ張って移動した方が楽なのではないだろうか。

遺体を普通に単体で放り出せなかった訳…網と魚…どちらかがフェイクか…
まあ…普通に考えて魚をいれる意味はない。
魚をいれる事によって網に遺体が入っている事を自然に見せているとすると…網にいれる必要があったのは、ひっぱって運ぶ事じゃないとしたら…。

まさかっ?!とギルベルトが思った時、桜の木を丹念に調べていたアーサーが、
「ギル、これだろ?」
と、桜の木の一点を指差した。
「これかっ!」
桜の木のその部分をなぞって急いでシートをかけ直すギルベルト。
「行くぞ!」
きびすを返して小走りに戻るギルベルトとアーサーを、一人意味のわからないユージンは
「何かわかったんすかっ?!」
と、あわてて追いかける。
そこでアーサーが少し歩調を緩めて
「まだ周りには何も言うなよ?あくまでここに来たのは現場保存と怪しい奴がいないかの見回りの為だ」
と、注意するのに
「了解っす!」
もう思い切り嬉しそうなユージン。
こいつ…大丈夫だろうな?とアーサーは少し不安になって眉をひそめた。


「ねえ…トーニョ。」
一方でダイニングに集まってお茶を飲みつつ待っている留守番組。

明らかに少し苛立っているアントーニョを避けて、女子は全員フランの所へ。
一人取り残されて心細くなったのか、リックすらその集団の方へとすりよっている。
そんな中、戸口をジッと睨んだままのアントーニョの元に、シンディーはカップを持って近づいて行った。

「アーサー君のこと心配?」
隣に腰をかけて聞いてくるシンディーに視線は相変わらず戸口に向けたままアントーニョは答えた。
「心配やで~。あーちゃんの事好きになってから心身ともに心配やなかった時なんて一瞬もないわ。俺ら知り合ったのって殺人事件起こっとる真っただ中やったし、あーちゃんは色々あって精神的にも参っとったし、俺はあーちゃんの事どうしても欲しゅうて他の二人に秘密で抜け駆けして、参っとるのに付け込むみたいにかっさらってもうたしな。」

「フランは…告白する間もなく失恋したって言ってたけど…ギルもそうなんだ?」
アントーニョの告白に驚く事もなく、シンディーはさらにそう聞いてきた。
「あ~…フランよりギルちゃんの方が本気ちゃうかな。そんな気ぃするわ」
「…だから…今ユージンも一緒とは言っても二人が一緒で心配なの?」
「ん~、ギルちゃんはあーちゃんの事思うて自分から身ぃ引いたんやと思うから…自分からはいかへんやろけどな。俺らが争ったらあーちゃん気ぃ使うて可哀想やって、自分より相手優先させるような男やねん、ギルちゃんは。でもほんま競ったらどうなるかわからんなぁって思う事もある…それわかっとるから正々堂々の勝負なんて申し込まへんし、絶対に持ち込ませへん。ずるくても何でもあーちゃんは絶対に渡しとうないんや」
こんなずるい男やで?俺は、と、アントーニョはそこで初めてシンディーの方に視線を向けて、笑いかけた。
シンディーはそんなアントーニョに少し驚いて目を丸くする。

「トーニョ…もしかして知ってた?私が今でもちょっとトーニョの事好きだったの。」
「さあなぁ。わからへん。」
とぼけるアントーニョに、シンディは、ウソ、とつぶやく。
「皆トーニョの事空気読まないKYとか言うけど…本当はすっごくよく人の事見てるよね。だから…アタックする気がね持てなかったんだ。隣の席でさ、私は皆に馴染めなくて、でもトーニョだけすごく気さくに接してくれてさ。私にとってはトーニョは特別だったんだけど、トーニョにとっては私は特別じゃない…そんな気がしたの。…でしょ?」
さらに突っ込むシンディーに、アントーニョは珍しく少し考え込んだ。

「本音…聞きたいん?楽しいもんやないと思うけど…」
「できるなら。私さ、ちゃんと振られないで諦めちゃったからさ。…ちょっとだけね、心残り。だからすっきり振られたいな」
「シンディーは昔から真面目やからな。ま、ええわ。すっきり幻滅させたるわ。」
アントーニョは苦笑した。

「あんな、夏休み前、自分がマイクと付き合うって電話ん時に、俺の事好きやったって言うてたやん?あの時は正直、言うたらつきあったったのにって思うたわ。」
「…うそっ!」
驚くシンディーにアントーニョはホンマやで~と笑う。

「せやけどな、言わんで正解やわ。俺は誰とつきあっとったとしても、あーちゃんに会った瞬間、恋人捨ててあーちゃんにアタックかけとったと思うから。
俺は自分以外の人間のために自分の欲求制御するって事ができひん男なんやと思うわ。
せやから…悪友二人騙しても、あーちゃんがほんまはギルちゃんとかとおった方が幸せになれるかもしれへん言うても、どんな理由があってもあーちゃん諦めるなんて事はでけへんねん。」
な、幻滅できたやろ?と、ニカっと笑みを浮かべるアントーニョに、シンディーは苦笑して首を横に振った。

「トーニョにそれだけ想われるアーサー君が羨ましいな…。でもって…そんな風に誰かを好きになるトーニョが前よりもっと好きになったかも…」
「あ~えっと…」
「あ、諦めはついたからねっ。安心して。ただ…羨ましいなって思っただけだから」
少し複雑な表情を見せるアントーニョに、シンディーは笑って顔の前で手を振る。
「…そか」
「うん。もうそれだけ思い切り惚気られたら、せいぜいリア充爆発しろとしか言えないじゃない」
クスリとシンディーが笑った時、ギルベルト達が戻ってきた。




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