リトルキャッスル後編_アンアサ_3

そしてマイクとダニーの部屋。
ダニーは鍵を開けて入ると、
「どこでも探してみやがれ!」
と、少し体をずらして他をうながした。

「全員でぞろぞろもなんだから…誰か、頼むよ。」
とのジョンの言葉に、
「マイクもダニーも初対面でどちらもよく知らない殿下がよくない?」
と女性陣が口をそろえた。
言われてアーサーは小さく息をつくと、ギルベルトから手袋を渡されてはめる。
そしてゴムボートレベルの物が入りそうな場所、ベッドの下を確認した後、次にクローゼットを開けた。

「これ…ですか?」
そこにはビニールに入った膨らますタイプのゴムボートが空気を抜いた状態でしまってある。
「あ~、それだよ、それ!君達がくるまでは確かに倉庫にあったんだが…」
と、驚いた声をあげるジョン。

「え??しらね~ぞ!ざけんなっ!俺らがくる前にここにいれといたんだろっ?!!」
焦るダニーだが、
「鞄…入れた時に気付かないはずはないよな?」
と、同じくクローゼットの中にしまってあった鞄を見ていうアーサーの指摘に、言葉につまった。

「ま…まじ知らないんだっ!ホントだって!」
救いを求めるようにアーサーにすがりつくダニーだが、ジョンはほうきを手に
「アーサー君っ!そいつから離れるんだ!」
と、叫んでダニーを威嚇し、アントーニョが慌ててアーサーを確保する。
ギルベルトはダニーとジョンを交互に見比べて、
「まあ…とりあえず俺なら平気なんで。こいつは一応二人以上で見張りましょうか」
というが、ジョンは
「そんな必要はないっ!他の子に危害を加えられたら危険だし、とりあえずワイン蔵に放り込もう!
あそこなら外から鍵かけられるからっ!」
と呆然とするダニーを引きずって行こうとする。

「ちょ…待って下さい」
止めようとするアーサーの腕を、今度はシンディーがつかんだ。
「友達…巻き込んじゃったの私だから。マイクだけじゃなくて、これ以上誰か死んじゃったりしたら申し分けなさすぎて生きていけない!」
と、また号泣するシンディーに困るアーサー。
チラリと救いを求めるようにフランに視線を送ると、フランは
「大丈夫、シンディーのせいじゃないから。」
と声をかけ、フランがシンディーの肩を抱いて女性陣と共に下へと降りて行った。

「俺らも下言っとくわ…」
と、アーサーを抱え込んだアントーニョもそれに続く。

そして残されたギルベルト。

確かに…鍵のかかった部屋にゴムボートを運び込めるのは部屋の主で鍵を持っているダニーかマスターキーを持っているジョン。
しかしもしマイクの遺体をゴムボートで運んだとすればボートを使用したのはマイクの死後になるから早くても11時すぎ。その時刻から朝食まではダニーが部屋にいた。
その後から今まではジョンは2Fに上がっていない。
では姪のシンディーが朝にといってもシンディーはシンディーでずっとアン達と一緒だったためそんな事をできる時間はなかった。
状況的には確かにボートをクローゼットに隠せたのはダニーだけという事になる…。

ということは…遺体を運べたのもダニーだけなわけで…。

ギルベルトはため息をついた。
正直…ダニーは犯人ではないんだろうと思う。
犯人ならあんなに堂々と犯罪に使ったであろう道具の隠し場所を見せないだろうし…。
リックやユージンはそこまでの犯罪を犯す理由も頭脳も度胸もない気がする。
とすると必然的に残るは…シンディーを心配するその他の面々なわけで…
もしくはシンディー自身か…。

謎を解くべきなんだろうか…解いてしまえばそれを黙認する事は当然できなくなる。
犯罪と確定したものを見逃す事はできない。
やめるならいまだ。

ギルベルトが下に降りて行くと全員が不安げな顔でダニーが閉じ込められているワイン蔵があるキッチンの方へと視線を向けている。
「ギルちゃん…どうした?」
なんだか様子がおかしい気がするギルベルトをフランが見上げて聞いた。
もし…犯人がダニーを含む空手部3人組じゃないと言ったら、フランはどうするだろうか…
自分はそれほど親しくはしてこなかったが、フランにとってはずっと親しくしてきた友人とその伯父だ。
アントーニョもそう言えばシンディーとは昔は親しかったはずだ。

「大丈夫。俺達は何があってもお前の味方だ。」
迷うギルベルトにアーサーがいきなり駆け寄ってきてそう言った。
大きな緑の瞳で見つめられて、不覚にも泣きそうになる。
「…ずいぶん唐突だな…」
驚いて言うギルベルトにアーサーは真顔で言う。
「なんとなく…な。何か悩んでる気がして…違うか?」
アーサーの勘の良さに舌を巻くギルベルト。
「あ~、お見通しか。うん、悩んでるな。アーサー、一つだけ教えてくれ」
「うん?」
「真実は…正義か?」
まあ…普通はそんな事を言われても戸惑うだけだろうが、アーサーは悩む事もなくきっぱりと言い切った。
「何を指しているのかはわからないけど…ギルが信念を持ってやるべきだと思う事を成し遂げようとするなら俺は全力で応援するし、そんなギルの事が俺は好きだぞ?…ってことじゃダメか?」
全く迷いもなく前向きな言い方に背中を押された気がした。
「いや…最高の答えだな…。悪い…結構辛い作業になりそうだけど頑張るから…例の頼む…」
ふっきれた気がする。
ギルベルトは決意をあらたに、さらにふっきるためにアーサーに言った。
「わかった。ギルベルト、信念に基づき問題を解決しろ。…でないと…」
そしていつもの台詞…
「針千本だっ」

「サンキュー。ふっきれた。」
本当なら抱きしめたいところだが、それをやると恐らくここまでは黙認してくれているであろうアントーニョがキレるだろうからと、ギルベルトはポンとアーサーの肩を軽くたたくにとどめ、そのアントーニョを振り返って言う。

「トーニョ、悪い。ちょっとアーサーを貸してもらえないか?…細やかな注意を払える奴じゃないと困るんだ。」
「危ない事とかやないんか?」
一瞬嫌な顔をするアントーニョ。
それに対してギルベルトが
「いや、単に色々触られたら困る物とか避けながら簡単な作業手伝って欲しいだけだから。危ないような力仕事ならお前に頼むんだけどな。小指の先ほどの怪我だってさせねえよ。なんなら指きりしてやろうか?本当に針千本飲んでやってもいいぜ?」
と、小指を差し出すと、
「嫌やわ。ギルちゃんと小指なんか絡めたない~。しゃあないな。くれぐれも変な真似せんといてや」
と、アントーニョはしぶしぶ了承した。

それからギルベルトは、あと一人…と、ユージンを指差す
「ユージン…手伝ってもらえるか?」
指名されて微妙に嬉しそうに
「はいっ!なんでもやるっす!」
と、立ち上がるユージン。

とりあえずこうして補佐を確保すると、ギルベルトはジョンに目をむけた。

「ということなので申し分けないです。女性陣の安全のためにも確認が終わって戻るまで絶対にここで待っていて下さい。フランは特に護身術とかやってないんで、何かあった場合はジョンさんとトーニョはここを動かず女性陣の護衛でフランを俺の方へ走らせるという形でお願いします。」
「ああ、わかったよ。気をつけて。」
笑顔でうなづくジョン。
とりあえず犯人の最有力候補のダニーは拘束済みで、外からは玄関からすぐのこのリビングを通り抜けないと奥へ行けないという事もあって、跳ね橋はおろしてもらう。

「では行ってきます。」
ギルベルトはアーサーを連れて外に出た。




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