一方で女性陣ご一行は当たり前にフランの部屋に押し掛け中だ。
それに対しフランとギルベルトは顔を見合わせる。
これ…言ってもいいんだろうか…いや、まずいよな?
たぶんあの独占欲の強いアントーニョがそれでも口にしないくらいなのだから、言っちゃいけないことなんだろうな…と、幸い4人の中では空気を読む二人は互いにアイコンタクトで確認し合う。
「あ~…アーサーはあれで他人にすごく気を使うタイプだから…気を遣いすぎて疲れないようにトーニョが気を回していると思われ……」
と、フランがまああながち嘘とは言い切れない言い訳をしてみると、
「デリケートなのねぇ」
と、女性陣は意外にもそれにあっさりのってくれた。
「殿下カッコ可愛いよね、マジ。お仕えしたいっ。」
「うん、お仕えしたいね~」
「あとで大浴場でお背中とか流したいね~」
という発言まで出てくる女性陣に、男二人うわぁぁ~~と焦る。
「ね、お嬢さん達、強要はだめよ、絶対にダメっ!どうしてもそういうゴッコしたいならお兄さんがつきあってあげるからっ!」
と、慌ててフォローに入るフランに、女性陣はえ~?と笑う。
「殿下だからいいんだよねぇ。フランじゃなんか成人向けになりそう」
「うんうん。殿下がいい~」
との言葉に、ギルベルトはフランに、だからアーサーを巻き込むのはやめろって言ったのに…お前トーニョに殺されるぞ…と、視線を送る。
そんな事はフランとて言われるまでもなくわかっている。
何か話をそらすもの…と考え込んでいると、
「そう言えばさ、殿下超頭いいんだよね。勉強教えてもらわない?勉強っ。あたし宿題持ってきたんだ~」
と、アンが言いだす。
「あ~、いいね。てかうちの学校、学年変わって先生も変わるって言うのに宿題ってありえないよねっ。新しい先生にちゃんと出した宿題とか引き継ぐからって。そんなとこにマメになんないでもいいのにっ」
とソフィーも言う。
「じゃ、そう言う事であとで宿題持って特攻?」
と言いだすジェニーに、ギルベルトが待ったをかけた。
「わかったっ!俺が教えてやるっ!」
自分のせいではないとしてもアントーニョがキレると色々面倒だと思い、ギルベルトが言うと、
女性陣は当然え~!とブーイング。
しかしそこでギルベルトは伝家の宝刀を抜いた。
「答えを…だぞ?」
「ギルベルト大先生っ!!」
と、とたんに掌を返す女性陣。
「大先生の気が変わらないうちに、今すぐもってくるっ!」
と、嵐のように去っていく。
一気にシーンとする部屋。
「ギルちゃん…ああいうの嫌いだよね?ごめん」
ギルベルトは基本的に努力を尊ぶ主義で答えを写すような行為は好きではない。
それでもアーサーに類が及ぶ事を考えてあえてその主義を曲げさせてしまった。
悪友と言えどさすがにフランも悪い事をした気がして肩を落とした。
ギルベルトはそれに対して、別に俺は良いんだけどな…とため息をつく。
「本人のためにならないだけだしな。お前は?ついでに写さんでいいのか?」
頬づえをついて言うギルベルトにフランは首を横に振った。
「いや、お兄さんもう終わってるし。今回春休みだけって事で新しい家庭教師雇ったからさ。今日から明後日の分も昨日みっちりでさ、とりあえず宿題から?」
「短期って珍しいな。」
「うん。いつもの先生は春休み。で、今回の先生は塾の講師やってた人なんだけどさ、受け持ってた塾生の一人が自殺したとかでショックを受けて、こっちの生活に見切りつけてUターンらしいよ」
「ほ~。自殺ねぇ。そのくらいなら塾なんざやめちまえばいいのにな。どこの塾だよ、それ」
「あ~計西会だったかな。大手の。確かマイク達も行ってるってシンディーから聞いた気が…。」
「確かに進学率は確かに良いが、キツい事でも有名だな。受験ノイローゼか」
「ん~そういうのと違うみたいだよ。塾のクラスでいじめだって。
若い女の先生だしさ、高校2年の男子とかだともう体格的に大人と変わらないじゃないない?
担当してたクラスで二人の男子が同じクラスの男子に嫌がらせしてたのは気付いてたけど怖くて注意できないうちに自殺しちゃったらしいんだ、その嫌がらせ受けてた方が。で、怖かったのもあるし責任も感じちゃって郷里では小学生相手の塾に務めるらしいよ。
ま、マイクなんかは殺しても死ななさそうだけど、シンディとか一緒の塾じゃなくて良かったね」
「そう言えば…シンディーって言えば、一時トーニョの事好きとか言ってなかったか?」
「あ~そう言えば去年の春くらいまでそんな事言ってたっけ。入学時くらいからだから…あの子らにしては飽きるまでが長かったよね」
ふとギルベルトが思い出したように言うと、フランがうなづく。
あいつあれで女の子受け良かったからねぇ…なんでそれがいきなりマイクに走ったんだか…と、フランは首をひねった。
それから伯父の手伝いをすると言うシンディーをのぞいた女3人がフラン達の部屋に押し掛けてギルベルトを取り囲んで宿題の答えを聞いている。
そんな中でフランはどうしても気になってコソっとジェニーの肩をつついた。
「ジェニー…ちょっといい?」
少し真面目な顔で言うフランに、はしゃいでたジェニーも真剣な顔になってうなづいて、集団から少し離れた窓際に移動した。
「どした?」
と、コソっと聞くジェニーに、フランはちょっとうつむく。
「あのさ、お兄さんが聞いていいような事じゃないんだけど…」
「うん?」
「シンディーってなんでマイクなんかと付き合い始めたの?」
入学して最初にアントーニョと席が隣になった女子、それがシンディーだ。
割と人当たりがよく、しかしアバウトなアントーニョとは対照的に、生真面目で…若干内向的。
今時の女子高生とはちょっとかけ離れたタイプで、いい加減なところがなく、それでいていつもにこやかな笑みを浮かべていた。
人の感情の機微に敏いフランからみると、内向的なシンディは明るく気さくなアントーニョに好意を持っていた気がする。
いつか特別な仲になるのかも?と思っていた時期もあったが、アーサーと出会う少し前、シンディー自身の口からマイクとつき合う事にしたという報告を受けたとアントーニョから聞いて以来、席も遠くなったこともあって、なんとなく悪友3人皆揃って疎遠になっていた。
女はちょっと悪っぽい男に惹かれるものだとはよく聞くが、生真面目なシンディーがというと、なんとなくピンとこない。
今それを聞いたからといってどうなるものでもないのだが、それでも高校入学から1年半、結構近い位置にいた人間としては…できればもうちょっと彼女に似合った男に乗り換えてくれないものかなと思う。
「ん~…」
ジェニーはフランの言葉にチラリとドアの方へと視線を移した。
「今それ聞いてどうするのかな?トーニョ恋人いるわけだし…フランはシンディの好み的に論外だし…ギルって女の子に興味なさそう。」
と、一部ひどいが、大方はもっともな言葉を口にするジェニーとそれに
「そうだよね…」
と肩を落とすフラン。
「ま、それでもあの状態じゃ気になっちゃうのがフランだよねっ」
ジェニーはそう言ってうつむくと、
「実はね…」
と話し始めた。
「ジェニーさ…親離婚してるじゃん?
元々親はジェニーが物心ついた頃には喧嘩ばっかしてて、よく弟と一緒にここのジョン伯父さんに預けられてたらしいの。
んでさ、ほぼ家族って両親よりは伯父さんと弟って感じだったわけよ。
だから学校卒業したら母親ん家出てここで伯父さんを手伝って暮らすつもりらしいんだ。
で、弟は音大目指してて、でもやっぱり最終的にはここで暮らすつもりだったらしいのね。
ところがさ、去年の7月ね、しばらくジェニー休んでたじゃん。あれ、弟が事故で死んじゃったからなんだって。
で、すご~くガックリしてたその頃にたまたまバイトで一緒になったのがマイクだったらしくて…。
まあ…もう過去の話だから言うけど、5月頃にはシンディー、夏休み前日にトーニョに告って夏を一緒に過ごしたいとか言ってたんで、私らも意外だったんだけどね。」
「そう…だったのか…」
「せめて…シンディーももうちょっと良さげな奴に乗り換えてくれたらな…」
それでも口をついて出るフランに、ジェニーもうなづいた。
「うん…。だから今回フランが男友達連れてくるって聞いた時ちょっと期待しちゃった。
つか…無理かな?あれだけスペック高い男の子ならどう考えてもマイクより良い気するんだけど…」
「無理…。あの子だけは無理…」
フランはため息をついた。
ここでアーサーを薦めたりしたら、フランの血の雨が降る。
「どうしても?」
ちらりと自分を見上げるジェニーにフランはうなづく。
「アーサーにはね、お兄さん告白する前に振られたって言ったじゃない?あれは本気の恋人いるから」
「そっかぁ…」
フランとジェニーが部屋の隅のベッドの影でコソコソっとそんな話をしていると、不意に内線がなってギルが出る。
そして内線を切ると
「なあ、部屋にも風呂はあるけど、大浴場あるから夜入りたいなら掃除しろだと。フラン行くぞ。」
立ち上がりかけるギルの服の袖をアンとソフィがしっかりつかむ。
「…な、なんだよっ」
とその真剣な顔に若干びびるギルベルトに、二人はきっぱり
「ギル大先生はダメっ!宿題終わるまでは絶対にダメっ!!」
と言ったあとに、くるりとフランの方を向いた。
「お風呂掃除くらいフラン一人でできるよね?!」
と、もう断ったら殺されそうな血走った眼で言われて、フランは思わずコクコクと言葉もなくうなづいた。
Before <<< >>> Next
0 件のコメント :
コメントを投稿