部屋に入って鍵をかけるなり、アーサーはしょぼんとうなだれた。
大きな丸いグリーンアイが少し潤んでいる。
「どうしたん?泣かんといてや。」
アントーニョはそれを見て荷物を放り出してアーサーを抱き寄せた。
「お前の…同級生に手、あげちまった」
抱き寄せられたままアントーニョの背中に手を回し、アントーニョの肩にコテンと頭を預けてそう言うアーサーに、アントーニョは、なんやそんなことかい…と、苦笑した。
「かまへんて。あいつらが悪いんやし…ていうか、もっとボコったったら良かったのに。俺やギルちゃんならもっと思い切りやってるで?」
「でも…お前の交友関係に嫌な奴って思われたっ」
そのままヒックヒックとしゃくりを上げるアーサー。
それでなくても自分は嫌われ者なのに…と、言うその言葉に、これだけ周りに愛されているのにどこが嫌われ者なのか、と、アントーニョは内心呆れた。
「あんなぁ…一応言っておくと、あいつら俺の知り合いちゃうで?学校でもめっちゃいけすかん類の奴らやし。フランの元彼女の友達の彼氏っていう、もうどんだけ遠いねんってくらい遠い関係やで。
それにな、あーちゃんほど愛されとる子おれへんやん。ギルちゃんもフランも油断できひんし…ま、もし他に誰もおらんかっても、俺一人のあーちゃんに対する愛情だけで、世界中の全人間の全愛情の半分くらいに当たるくらいあると思うで」
「なんだよ、それ。どんだけでかいんだよ」
アントーニョの言い草に、思わず噴き出すアーサー。
「ほんまやで~」
と、とりあえず涙が止まった事にホッとしながらも、アントーニョも笑う。
「あーちゃんの事好きや~。ほんまだ~い好きや」
甘やかすようにそう言って抱きしめられながら撫でられるのが、アーサーは好きだった。
同じ年のはずなのに、そういう時はアントーニョはやはり下に兄弟がいる兄なんだなぁと思う。
「でも…男連中はそうでも女の子達は友人だろ?」
アントーニョの肩にうずめていた顔をあげてアーサーが言うと、アントーニョはその唇にチュッとキスを落とし、
「あいつらも油断できひんわ。襲われんといてな」
と、割に真剣な顔でそう警告する。
「逆だろ?それ」
きょとんとした顔で不思議そうに首をかしげるアーサーの様子に、アントーニョは本当に心配になってくる。
「残念ながらな…逆やないわ。あーちゃん目ぇ放したら絶対にあの肉食系女子共に食われてまいそうや」
「なんだよ、それ?」
「わからんでええわ~。むしろわからんままでおって。」
アーサーをぎゅうぎゅう抱きしめながら、アントーニョは大きく息を吐きだした。
「……俺だけのあーちゃんでおってな?」
と、そのまま再度口づけた時、ドアがノックされる。
アーサーは閉じていた目を開けてチラリとドアに目をやって、アントーニョをトントンと叩くが、アントーニョはどうせジェニー達だろうと、スルーだ。
それでも気になるのかワタワタ抵抗するアーサーが文句を言おうと口を開いた瞬間、舌を割りいれ、逃げるアーサーの舌を絡め取る。
そのまま口づけを深くしつつ徐々に力を失うアーサーの身体を抱えあげて、ベッドに寝かせると上から覆いかぶさるように顔をのぞきこんだ。
「…と…にょ?」
息苦しさに少し朦朧とした表情で見上げるアーサーの肩口に、今度はアントーニョが顔を押しあてた。
「俺以外見んとって。」
くぐもった声で言うアントーニョの黒い癖っ毛に指をからませながら、不思議に思ったアーサーがどうしたんだよ?と聞くと、アントーニョはそれには返事をせず顔をあげて再び口づける。
アーサーは今度は抵抗はせず、アントーニョがしたがるに任せてそれを受け入れ、自分からも積極的に応じると、やがて唇を放したアントーニョが、ちょっと嫉妬してしもた、と、苦笑する。
「なんで嫉妬?」
考えても見なかった言葉に目を丸くするアーサーに、アントーニョは、やって…と、口をとがらせる。
「あいつらあーちゃんに馴れ馴れしくしすぎやっ。何が殿下やっ!何がチャレンジしてみよやっ!」
「あんなの冗談に決まってるだろ」
それこそそんな事で機嫌を悪くしていたのかとアーサーが苦笑すると、アントーニョは冗談やないわっと、さらにふくれた。
「俺はあーちゃんが俺のやって言えへんのにっ」
と言う言葉に、アーサーは
「言えないんじゃなくて言わないんだろ」
と、少しムッと眉をひそめる。
同性だから自分の交友関係に恋人とは言えないと言うのはよくわかる…が、自分だってそれが少し寂しいと思わないでもないのだ。それを理由に不機嫌になられても…と思っていると、アントーニョは、へ?と目を丸くする。
「言ってもええの?」
「言って困るのはお前の方だろ?お前の交友関係なんだし」
何を当たり前のことを、と、アーサーが言うと、アントーニョはパアアァっと嬉しそうな笑みを浮かべた。
「なんや~、それならそうと言ってやっ。
俺、あーちゃんが恥ずかしがる思うて我慢してたんやでっ。
そんならもうあーちゃんは俺のやから手出さんといてって言うわ~」
あまりに嬉しそうなので、やめとけとは言えない…が、本当に今後の人間関係考えた時にそれでいいのか?とは思う。
が、口にしようと口を開いた瞬間、また唇をふさがれて、その言葉はアントーニョの中に吸い込まれて行った。
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