リトルキャッスル前編_アンアサ_3

「さあ着いたよ」
雑談をしつつ陸地を離れて2時間。やがてクルーザーが船着き場に止まる。

そこは半径2kmくらいの小さな島で、船着き場から少し奥まった所に直系100mくらいの湖。
その中央にそれはそれは可愛らしいミニチュアの城のような建物がある。
各部屋のバルコニーも可愛ければ、上には見晴し台のような塔に鐘まで着いている。
本当におとぎ話のようなシチュエーションだ。

「うっわ~、可愛い♪」
思わず歓声をあげる女性陣。
城と岸は跳ね橋でつながっていて、岸の方には可愛らしい呼び鈴のついたポールが立っている。

「…可愛いなっ」
周囲に聞かれないよう小声でそう言って目を輝かせるアーサーを見て、アントーニョは少し機嫌を上昇させる。
花のような笑顔を浮かべてアーサーが感想を述べるのは、やはり他でもない自分なのだ。

「一応…防犯の関係上私が18:00にあたりを警備に見回ってその後19:00にはこの跳ね橋はあげてしまうからね。で、翌朝8:00にまた降ろすよ。
夏は海水浴とかもできるから外の倉庫には浮き輪とかゴムボートとか釣り道具とか諸々入ってるけど、今使えそうなのは釣り道具くらいかな。釣りは外に行かなくても部屋から釣り糸垂らせるしね。言ってくれれば餌も提供するよ」
ジョンは一同を中にうながしながら、説明をする。

「ということで部屋割りは女子はジェニーとアンが同室、あと私とソフィが同室ね。
で、男子はフランとギル、トーニョとアーサーさん、マイクとダニー、リックとユージンの組み合わせで♪
客室は全部が海の見える方向に面してるから眺めはいいよ♪
鍵はマスター別にしたら各部屋一つだからどちらが持つかは各部屋ごとに決めて。
ドアはオートロックだから鍵を部屋に置いたまま出ちゃわない様に気をつけてね♪」

説明が終わると即、
「じゃ、そう言う事で二人…そうね…トーニョとギル。荷物運び手伝ってきて!」
と、ジェニーが当然のように命令する。
「え~、なんで俺らなん?」
了解、と、素直にジョンの方に向かうギルベルトをよそに文句を言うアントーニョ。
「フランでもええやん。」
というアントーニョの言葉にジェニーはきっぱり返す
「あんたの方が力あるじゃない。フランそういう意味では役に立たないし。それに…各部屋一人の方が、残った方が部屋の準備できていいでしょ。それともトーニョ、フランと部屋代わる?」
「いや、それはあかんっ!わかったわ、運べばええんやろ。ちゃっちゃとやろっ」
と、アントーニョは慌ててジョンに走り寄った。
自分以外の人間がアーサーの同室になるくらいなら、荷物運びの方が断然ましだ。

こうしてジョンとギルベルト、アントーニョの3人が船に食材その他を取りに戻ると、男4人がクルリとジェニーを取り囲んだ。

「おい、ジェニー、さっきは調子に乗った事言ってくれたじゃねえか」
と、一歩前に出るダニー。
「女だからって手加減はしねえぞ」
との言葉に、女4人、慌ててフランの後ろに回り込んだ。

「相手にしたらのされちゃうギルがいなくなった途端にそれって、さすが天下の空手部よねっ」
と、そこでベ~っと舌を出すジェニーにフランは泣きたくなった。

なに?この状況。お兄さん死亡フラグ?と、思いながら
「ま、まあ喧嘩はやめようよっ。女の子相手に大の男が…」
と、言った言葉は火に油を注ぐようなものだった。

「ほぉ~、じゃ、男のお前が相手になるって事だよなっ!」
と、もう言葉を発すると同時にフランの襟首をつかむダニーに女性陣が悲鳴をあげる。
「…言葉で敵わないから暴力というのは、どうかと思うが…?」
と、そこでずっと無言でその様子を見てたアーサーが口をはさんだ。

「ほ~ガリ勉君も参戦かっ」
合流してからずっと女性陣に騒がれていたアーサーの事を快く思っていなかった面々が、フランを放置でアーサーを取り囲んだ。

「ちょ、アーサーにはっ」
慌てて間に入ろうとするフランを片手で制して、アーサーはニコリと笑みを浮かべる。
「レディ達を前に乱闘は避けたいんだけどな。仕方ない。フラン、女性陣を頼む」
と、その言葉にダニーはニヤニヤ下卑た顔で
「お坊ちゃまに世間てもの教えて差し上げるって俺ら超親切だよなっ」
と言うと、襟首をつかもうと手を伸ばしてきた。
アーサーはその手をパンとすばやく払うと、逆に相手の襟首をつかんで、投げ飛ばす。
ドスン!と受け身も取れずに床に転がるダニーに、
「武道やってるのに受け身もとれないのか…」
と、心底不思議そうな目を向けるアーサー。
そして残りの面々に
「ぜひ教えて頂こうか?」
とやはりニコリと笑みを浮かべた。
「お、おいっ!」
マイクに促され、今度はリックとユージンが殴りかかるが、あっさりかわされ、ダニーと共に床に転がる羽目になる。
「で?まさかここで逃げるとかはないよな?」
と、最後に残ったマイクに可愛らしい笑みを向けるアーサーに、チッと舌打ちをして仕方なくかかってくるマイクも当然同じ運命をたどった。

ポカ~ンとする一同。
「ちょっ何これっ?!」
シン…と静まり返った沈黙を破ったのはジェニーの声だった。
「すっごぉぉ~~いっ!!!!」
と女性陣がそれに呼応して手を取り合って歓声をあげた。

「アーサーってさ…フェンシングだけじゃなかったんだ?」
唖然と言うフランを
「アーサー君、何者?!」
と、見上げて詰め寄るジェニーに、フランは
「えとね…中学時代フェンシングの個人部門の優勝者だった…って事までは知ってるんだけど?」
と、うながすようにアーサーを見る。そこで聞かれているらしい事に気付いたアーサーは
「誘拐よけの護身術程度には柔道と空手はやらされたけど、そこまでじゃない。段は一応持ってるけど…」
と答える。
背は低くないモノの華奢な部類に入るであろうアーサーのその経歴に、
「うっそ~~!!!」
と女性陣は大騒ぎ。のされた男4人は呆然だ。

「フラン、そんなすごい人と友達ならどうして言ってくれないのよっ!!」
「え~?言ったらお嬢さん達、どんな手を使ってでも呼び出させるでしょ?」
詰め寄る女性陣に笑いながら言うフラン。
「もうっ、当たり前じゃないっ!顔良し、頭良し、お育ち良し!殿下よ、殿下っ!」
「うん!殿下よねっ!」
大盛り上がりな女性陣に、苦笑するフランと少し戸惑うアーサー。

そんな中荷物を抱えて戻ってきたジョンとギルベルト、アントーニョの3人。

「どうしたんだい、これは?」
と聞いてくるジョンに姪のシンディーが事情を話すのを聞いて一気に顔色を変える二人。

「ほぉ~俺様のいない所でアーサーに手をあげようなんざ良い度胸じゃねえかっ!そんなに死にたいのかっ!!」
と、マジ切れして殺気を放つギルベルトにすくみあがる男4人。

一方アントーニョの方はアーサーに駆け寄って、
「あ~ちゃん、目放して堪忍なっ。大丈夫か?!怪我してへん?救急車呼んだろか?」
と、どう見ても怪我どころか服装の乱れすらないアーサーを上から下まで入念にチェックする。

「いや…怪我してるとしたらあいつらの方だし…」
と、その大げさな様子に苦笑いをして言うフランを、アントーニョはギロっとにらみつけた。

「ふ~ら~ん~~!!!!」
「はいぃぃっ!!!」
「自分がついてて、あーちゃんに何やらせとんっ?!!!自分百回くらい死んどくかっ!!!!」
「いやいやいやいやっ!!!」
ボキボキと指を鳴らしながらものすごい形相で近づいてくるアントーニョに慌てて手と首を横にブンブン振って後ずさるフラン。

そんな喧騒を見守る女性陣。
「ね、何あれ?」
「ん~…殿下と護衛二人…かな?」
「うん、殿下と護衛二人と召使い?」
「うん、いいねっ、殿下と護衛と召使っ!!」
と、きゃいきゃいはしゃいでいる。

そしてそんな面々を放置でアントーニョは
「あーちゃん、疲れたやろ。先に部屋行こ。」
とアーサーに声をかけると、アーサーの荷物も持って階段を上がって行く。
それをダダ~っとアン、ジェニー、ソフィが追って行った。
シンディーはマイクにかけよるが、手を振り払われて怒鳴りつけられている。

それを複雑な気分で見るフラン。
自分が口を出す事じゃないが…シンディーがなんでマイクみたいな奴とつき合う事にしたのかがよくわからない。
「…フラン、行くぞ?」
怖い目でそちらを見ていると、ギルベルトが見かねて声をかけてくる。
シンディーの事が気にならないといったら嘘になるが、フランがここでこうしていてもどうなるものではない。
「あ、ああ、ごめん。俺達も行こうか。」
フランはそこでギルベルトにそう返して客室のある二階へとうながした。



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