一人寂しく掃除をしていると、ガラっと浴室のドアが開いた。
「フラン、手伝う。」
と、入ってきたのはアーサーと若干不機嫌な顔をしたアントーニョ。
「アーサー手伝いに来てくれたんだぁ~~!!!」
思わず駆け寄って抱きしめようとするフランを、アントーニョがデッキブラシの柄で押しとどめる。
「あーちゃんにちょっとでも触ったら手伝わんで。」
と言うアントーニョは凶悪な顔で、とてもじゃないが手伝わないで帰るだけじゃすみそうにない。
「うん。ごめん。掃除しよっか…」
と、フランは両手を上にあげた。
「でもよく手伝いになんか来たねぇ」
アーサーはともかく、アントーニョまで風呂掃除を手伝いにくるのを同意するとは思わなかった…と、正直なところを述べると、アントーニョは肩をすくめた。
「今ギルちゃんと女の子らは飯の支度しとるんや。で、あーちゃんもなんか手伝いたい言うから……」
「それでなんで食事じゃなくて風呂掃除?」
アントーニョと並んでデッキブラシで床を掃除しながら、窓ガラスを拭いているアーサーにチラリと視線をやるフラン。
それに対してアントーニョもやはりチラリとアーサーの様子を窺って、小声で答える。
「あーちゃんな…なんていうか…家事完璧やねんで?掃除も洗濯もアイロンがけも…裁縫なんてほんま見事としか言えへんくらいで、俺な、寝巻代わりの浴衣とか縫うてもろたんや。」
「トーニョ…お前何がいいたいのかお兄さんわかんないんだけど…」
と思わずつっこむフランにアントーニョは言いにくそうにため息をついた。
「せやから…な、ほとんど全部何もかも完璧なんやけど…料理だけが…な…、食物兵器なレベルであかんねん。」
「…なるほど…ね」
苦笑するフラン。
これだけベタ惚れなアントーニョがあえて食物兵器という言葉を使うくらいだ、かなりすごいのだろう。
しかし一方でアーサー以外の面々が料理が大丈夫かというと……
「えっと…お皿運びくらいならっ。でも家庭科の授業以来料理した事ないんだけど、私」
というジェニーをかわきりに、私も私もと手をあげる女性陣。
その友人達に、シンディーは深く深くため息をついた。
「とりあえず…家庭科でやったわけだから全くできないわけじゃないよね?着替え置いたら来て」
と言いおいて、またクルリとキッチンへと消えて行く。
「どうしよう…私家庭科は味見係だったんだけど…」
と言いつつ2階へと向かうジェニー。
「私も同じ様なもんよ」
とソフィもいう。
アンは
「皮むきくらいなら…ね」
とそれよりはちょっとはマシらしいが…。
「怖いな…一応手伝うか…」
と、ギルベルトはキッチンへと向かった。
「これ千切りお願い」
と差し出されたキャベツをぶつ切りにするソフィ。
ジェニーはジャガイモの皮というよりジャガイモを向いている。
「伯父さんが獲って来たんだけど…魚おろせないよね?」
もう否定形で聞くシンディーに、もちろんうなづくアン。
「手伝って…いいか?すごく心臓に悪い。頼むから包丁はまかせてくれ…」
手伝っていいやらいけないやらわからず少し離れてそのすさまじい情景を見ていたギルベルトが、自分もエプロンをつけてシンディーをのぞく今にも手を切りそうな女性陣全員から包丁を取り上げた。
そして…本当に千に刻まれて行くキャベツ。
クルクルとあっという間に皮が向けていくジャガイモ。
そして…綺麗な薄造りにされる魚。
「おお~~!!!」
と歓声をあげる女性陣。
「すっごいね~。ギルベルト大先生、料理もできるんだ?」
という声に
「うちは母親いない男所帯だからな」
と淡々と食材を切り刻んで行くギルベルト。
「魚は竿で?」
と、手を動かしながら隣でやはりせっせと調理をしているシンディーにギルベルトが聞くと、シンディーはちょっと微笑んで首を振る。
「ううん、網で。今朝獲ってきたとれたて。」
「どうりで…。新鮮だと思ったわ。」
「何…してんの?ギルベルト大先生」
そんな二人を所在なげに見ている一同から一歩踏み出して、ジェニーが呆れた声を出した。
「何って…飾り付け。」
造りにした魚でバラの花のような形を作りながら言うギルベルト。
「料理は目と舌で味わうものらしいぞ。」
「ギル…ホント見事だね。伯父もこの仕事長いからかなり料理やるんだけど、それに勝るとも劣らない包丁さばきだと思う。勉強もできて武道もできて料理もって…ホントすごいね。」
シンディーが鍋をかき回しながら目を丸くする。それに対してもギルベルトは
「どれも親父にきっちりやれってやらされてたからな。」
と、また淡々と答えた。
結局シンディーとギルベルト二人だけでてきぱきと作業を終え、それを指示通りにテーブルに運ぶ一同。
「なんかちょっとした旅館の食事みたいよね♪」
とウキウキという女性陣。
料理を運び終わったタイミングでいきなり玄関の方でギギ~っという大きな音がなった。
「な、何?!」
思わずお互いに抱きあう女性陣。
「あ~、あれね、跳ね橋が上がる音。」
みんなの慌てぶりがおかしかったのか、シンディーがクスクス笑いをもらした。
「ほ~…すごい音するんだな」
ギルベルトも感心したように玄関の方向をみやる。
「うんっ。まあだからあんまり遅い時間だとなんだし、伯父さん毎日夕方6時から1時間外見回って夜の7時に跳ね橋あげて、朝の9時に下げるの」
まだお腹を抱えて笑い転げながら、シンディーは笑いすぎて出た涙を拭いた。
「ただいま~」
と玄関の方からジョンの声がする。
シンディーはそこで
「じゃ、ギル、トーニョ達呼びに行ってあげて」
と少しまた笑みを浮かべると、
「おかえり~ご飯できてるよ~」
とパタパタとジョンの出迎えに走って行った。
0 件のコメント :
コメントを投稿