いや、止まってしまえばいいと思った。
ドアが開く音に体中に鳥肌が立つ。
………
………
………
……え??
――アーティ、遅れて堪忍な。
何故?とポカンと呆けるアーサーの方に駆け寄り、力が抜けて窓際の床にへたり込んでいるアーサーの腕を取って立たせてくれたのは、まぎれもなく待ち続けた相手、アントーニョだった。
「…と…にょ…?」
信じられずペタ…と、その胸元を触れば、くすぐったいわぁと、明るく笑う。
……ああ…トーニョだ…。
ぶわっと涙があふれ出た。
嬉しくて安心で…とにかく嬉しくて……
「…っ…お…そいっ!!」
と、泣きながら抱きつけば、やっぱり笑って、堪忍な、と、繰り返す優しい声。
「…聞くまでもなさそうやな?約束通り連れて行くな?」
ぎゅうっと力強く抱きしめてくれる腕の中でアーサーが一息付いていると、アントーニョは少し身をよじって後方に向かって声をかけた。
「…仕方…ないね。」
小さなため息。
その声にアーサーはギョッとして、ビクゥッ!と、アントーニョにしがみつく手に力をこめた。
それにアントーニョは、大丈夫やで、と小さく笑って、頭をなでてくれる。
「色々な、親分も調べて交渉してん。
で、とりあえずアーティが行きたい方に行かせる言う約束にしたんやけど…」
「行くっ!トーニョと行くっ!!」
アントーニョが全てを言い終わらない前にアーサーは言葉をかぶせた。
「家に…俺の家に帰りたい…」
と、さらに言うと、
「おん。ほな、帰ろかー」
と、アントーニョは言って、アーサーを軽々と抱き上げる。
これで身体のどこも、足先さえも、アントーニョ以外は何も触れていない。
その事実にひどく安堵する。
アルフレッドに誘導されて外に出て、アントーニョがどうやらこっそり用意させたらしい車の助手席に降ろされると、アーサーは少しがっかりした。
「…なん?」
と、首をかしげるアントーニョに、さきほどの全てがアントーニョ以外に触れていない状態が心地よかったのだと素直に告げれば、アントーニョが
「ほな、出口のない親分しかおれへん塔の中で親分だけ見て暮らせばええわ。」
と、この世で最も幸せな提案をしてきて、アーサーはそれにおおいに同意したのだった。
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