「…アーサーさんっ」
と、そこで静々と…しかし逃げる間を与えないほどの速さで歩み寄ってくる桜。
ぎゅっと自分の後ろに隠れるアーサーが掴んだ腕に若干力が入るのに気づいて、ギルベルトは苦笑した。
「よお、桜、久しぶり」
と、自分から手をあげて挨拶をすれば、桜はにこりと綺麗に微笑む。
へ?と周りが注目する中、桜はいったんアーサーから視線をギルベルトに移して、深々と頭を下げた。
「お久しぶりでございます、お館様。
ご健勝のようでなによりでございます」
と、その言葉にアーサーはぽかんとギルベルトを見あげる。
もちろん他の面々もだ。
それに対してギルベルトは苦笑。
「それ、やめろよ。
もう俺はお館様じゃねえし。
今のお館様はマシューだろう?」
そう言うと桜は澄ました顔で
「わたくし達のお館様は生涯ギルベルト様だけでございますが?」
と言うので、ギルベルトはクシャクシャと頭を掻いて、そしてため息をついた。
「あー、じゃあ、最後の命令だ。
ここでのお館様扱いは一切禁止。
俺はブルーアースのいちジャスティスだし、お前も対等の同僚だ」
と、その言葉に、全く納得してもいなければ聞く気もございませんとばかりの笑顔で、桜は
「かしこまりました。
それではお館様とお呼びせず、失礼ながら子どもの頃と同様、“師匠”と呼ばせて頂きますね」
と頭を下げる。
そうして頭をあげてクスリと笑み。
「師匠なら安心でございます。
アーサーさんをよろしくお願いいたしますね。
アーサーさん…砂田さん、今日はこちらに滞在なさるようですので、師匠のお部屋に泊まらせて頂いてはいかがでしょうか」
と、その後アーサーに視線を移して続けた。
「…砂田って極東のブレインの頭だよな?
…さっきの奴らみたいな輩か?」
とそこでギルベルトが後ろを半分振り返って聞くと、言いにくそうに口ごもるアーサーの代わりに桜が言う。
「さっきのと言うと…フリーダムの皆さんの襲撃でもありましたか?
砂田さんはどちらかと言うと逆方向に困った方で…」
「逆方向に?」
「ええ」
聞き返すギルベルトに桜は絶対零度の笑みを浮かべた。
「アーサーさんのように愛らしい少年が大好きな方なのです。
“あの年と容姿で”。
まあ想うだけなら勝手なのですが、権力をフル稼働でストーカー行為に走られるので…。
科学部のトップがストーカーというのは、本当に厄介です。
もうなんというか、レッドムーンの魔導生物よりよほど迷惑で悪質な存在です」
「はぁ?!なんだ、そりゃ」
と、こちらも同様に怒気を含んだ顔で聞き返すギルベルトに桜は若干平静を取り戻したようにコホント一つ咳払い。
「ブレインのトップに基地内でいきなり魔法をぶちかますわけにも参りませんしなかなか大変ではありましたが…
まあ…あの方は極東を離れる事はまずありませんから、明日極東へ帰られれば二度とお会いする事もない方ですしね。
ただ、最後の機会だからとお礼参りと逆方向の行動を取られても嫌ですし…アーサーさんの貞操を確実にお守りするために、今日は師匠のお部屋に泊めて差し上げて頂ければと思うのですが、いかがでしょうか?」
「俺様は構わないぜ?
というか…それきいたら嫌だって言われたら俺様の方がアルトの部屋の方に泊まるしかねえだろ」
と答えるギルベルトに、アーサーの方も異論はないらしい。
てっきり強がって1人で平気だとでも言うのかと思えば、よほど相手が嫌なのだろう。
全身の毛を逆立てて警戒する猫のようにピリピリとしながらギルベルトにしがみついている。
そんな様子に、本当に猫みてえ…と、ギルベルトは小さく笑みをもらした。
「ま、本部はジャスティスの人権はちゃんと守られてるから安心して?
もしそれでも何かあったら、あたしに言ってくれればストーカー野郎くらいフライパンで張り倒してあげるからっ」
と、エリザがフライパンを掲げれば、ルートの後ろからススッと歩み寄って来たフェリシアーノは
「大丈夫。本部のブレインの本部長は俺の兄ちゃんだから、何か困った事があったら言ってね?」
と、ソッとアーサーの手を両手で包み込む。
…か、可愛い~~!!!!
と、それを遠目で愛でる面々。
確かに可愛らしい格好をした華奢な少年2人が手を取り合う図は、女性から見ても男性から見ても愛らしく映る。
パシャパシャと焚かれるフラッシュ。
それにアーサーは驚いたようにすくみあがるも、女性が少ないブルースター内で女性だけではなく一部の男性陣にも人気者のアイドル的存在であるフェリシアーノはそんな周りの反応にも慣れたものだ。
全く気にした様子もなく、むしろ
「みんなも俺の新しい友達に親切にしてあげてね」
と、にこやかに周りにうながした。
「た~ま、何か食うか?それとも踊るか?」
後ろに張り付いて色々な意味でぽか~んと目をまんまるくしているアーサーをギルベルトは振り向いてふわっと抱き上げると前へと降ろす。
「食う」
「了解っ!料理取りに行くぞ~」
と、ギルベルトはアーサーの肩を抱いて料理のテーブルに向かった。
そしてサッと皿を手にすると、
「何食いたい?」
と、アーサーを見下ろす。
「…たま?」
料理を前にぼ~っとするアーサーの顔をギルベルトが不思議に思って覗き込むと、アーサーは黙って俯き加減に首を横に振った。
「あー…あのな、たま…」
なんとなく察してギルベルトは苦笑する。
「本部では誰もたまを意味もなく害したりする奴はいねえからな?
ジャスティスも多いからジャスティスの大変さはみんなわかってるし、ジャスティスが欠ける危険性も熟知してる。
ジャスティスが1人減れば一般人が多く死ぬのもわかってるし、それくらいなら自ら身代わりになるのも辞さない。
それを命令した上層部じゃなくてジャスティスにぶつけるようなプロ意識のない奴もいない。
それでもだ、たまに何か危害加えようとする奴がいたら俺様が絶対に守るから安心しろ。
絶対にだ」
と、そう言いつついったん皿を置いてギルベルトは自分より一回り以上小さく細い身体を抱きしめた。
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