子どものための金の童話 第六章_2

お供はヒーロー


「待たせたねッ!ヒーローの登場さっ!」

森の中を続く道をテックテックリックリック歩いていた一行。
本来の桃太郎なら犬、猿、雉の順に家来になるはずだが…

(お供はほんまなら3匹やし…香はお供にはいるんやろか~。
せやったら、あと二人入るんかいなぁ)

『おやつは300円まで。バナナはおやつにはいりますか?』的なノリで悩みつつ歩を進めるスペインの前にいきなり空から…いや、正確には木の上からメタ…ゴホンゴホン、若者が降ってきた。

「あ~…自然は大事にしないと的な?木が可哀想っす」
と、若者と一緒に降ってきたおそらく重みで折れた枝を見て、イギリスと同じく特徴的な太い眉を寄せる香港。

「さ~、今日中に進めるだけ進んどこか~」
と、ひょいっと隣を歩くイギリスを抱き上げ、歩を早めるスペインに、若者は

「ちょっと待ったぁ!!」
と声をかけた。

それを無視してスタスタ進むスペインと香港。

イギリスは
「トーニョ、なんか言ってるけど良いのか?」
と、大きくまん丸の目をぱちくりさせて自分を抱きかかえるスペインを見上げるが、スペインは
「目、合わせたらあかんよ?知らんぷりし」
と『危ない人についていっちゃいけませんよ』と子供に言い聞かせる親のようにイギリスに言う。

「アントーニョ待つんだっ!アーサーを返すんだぞっ!」

そこまで不審者、そこまで邪魔者扱いされてもめげないのはさすがKY。
アメリカはズザっとイギリスを抱えたスペインの前に回り込んだ。

しかしその必死の形相が子どもには怖かったらしい。
ぎゅぅっとスペインの首にだきつくイギリス。

「大丈夫やで~。親分がちゃんと守ったるからな~」
その小さいイギリスにデレデレになりながら言うスペイン。

そして…恐怖を感じた結果スペインにデレる事になるちびリスに、嫉妬全開の視線を向けるアメリカ…。

「べ、別に、お前に守ってもらわなくても大丈夫なんだからなっ!」
と、言いながらも涙目でスペインの首にしがみついたままのイギリスに、

「そうだよっ!君を守るのはヒーローの俺の仕事なんだぞっ!さあっ!これから鬼退治に出発だっ!!」
と、手を伸ばすアメリカ。

ヒクっと引きつるイギリスの顔に気づいた香港が、仕方なくそれに割って入った。

「No,No。ユーは勇者証明書持ってない的な?
鬼退治に行くのは証明書持ってる人間。ユーシー?」

チッチッチと指を振りながらそう言う香港に、アメリカは心底イラっとした顔をした。

「だからっ!ホントは俺がその勇者なんだぞっ!
俺はアーサーを迎えに行ったんだけど、そのペドキングにアーサーを連れて行かれてしまったから、今まで探してて、手続きに遅れて行ったらすでに代役が証明書発行されたって聞いて追いかけてきたんだっ!!」

…どうやら本来のこの桃太郎の主役はアメリカだったらしい。

ペドキング…という言い方は非常に不本意にして腹立たしいが、自分の首にすがりついたまま震えているイギリスは全くその言葉を気に留めていないようなので、やぶ蛇になっても困るし、黙っておく。

「お、俺…あいつのとこにやられるのか…」
こらえきれなかった涙がポロリと溢れるのを両手がふさがっているためチュッと唇で吸い取ると、スペインはイギリスの柔らかな頬に自分の頬を擦りつけた。

「やらへんよ~。親分が守ったるって言うたやろ?安心し」

現実世界ではイギリスが今でも ――スペインにはその感覚は到底理解できないが―― 可愛いと思っているらしい元弟を振りきってスペインに縋り付いてくるなど、とてもとてもありえないだけに良い気分だ。

「何を言ってるんだいっ!アーサーを誘拐した分際で!」

ぽこぽこと怒って迫ってくるアメリカに、スペインは

「ちょおこの子頼むわ」

と、香港にイギリスを託すと、ボキボキ指を鳴らした。


(とりあえず…頭はいくら架空の世界でもまずいやんな……)
イギリスが手元を離れた時点でスイッチが切り替わるスペイン。

この、現代からかけ離れた少し昔風な雰囲気の世界が、彼を在りし日の…現役帝国時代の真っ黒な状態へと引き戻している。

(まあ、手っ取り早く再起不能にならんあたりで急所言うたら…みぞおち、腿、膝、脛あたりかいな…)
と、急所を脳内で列挙するその顔には凶悪な笑み。

スペインが背を向けているイギリスや香港には見えないが、それを正面からまともに見ている唯一の人物…アメリカは青くなった。

(な、なんだか、目つきがまずいんだぞっ!)

「お、オ~ケィ!じゃあ今回は主役は譲ってあげるよっ!その代わり俺もついていくんだぞっ!」

大国でも彼は大事に育てられたお坊ちゃんだった。
たった一人で自分の身を捨ててでも得体の知れない敵に向かうだけの覚悟はない。

それでも譲れない最低ラインは確保した提案をするアメリカにスペインは

「ついて来んといて。アーティー怯えとるし」
とにべもない。

しかしそこで間に割って入ったのは香港だ。
読めない表情でツンツンとスペインのマントを引っ張って、

「なん?」
と不機嫌さを隠さず振り返るスペインに耳打ちする。

(…何かあった時、盾…もとい生贄は必要っす)

うあぁあ~~えげつなぁ~~…とさすがにスペインも思うわけだが、香港はアルカイックスマイルで
(備えあれば憂いなし。菊さんの家でそう教わったっすよ?
見捨てられない人員のみで構成すると、色々しんどいし…)
とさらに耳打ちしたあと、にこりと

「アーサーさん守るのに打たれ強い仲間もマジ必要っすよ」
と、これは全員に聞こえる大きさで言った。

「…うん…まあ、あれや…。後悔せんようなら付いて来?」
一転少し同情の意を乗せるスペインの表情や声音には気付かず、

「お~けぃ!任せてくれよっ!!」
と、キラリ~ン☆と白い歯を見せて笑うアメリカ。

こうしてお供に盾…もとい生贄役のヒーローを加えて、一行はさらに歩を進めたのだった。


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