にいにって呼んだら桃饅やるあるよ?」
街の中央部の小高い丘の上にある、ひときわ大きな家につく。
長老…というには随分と若く見えるが、実年齢を考えれば長老どころか仙人と言っていいのだろう。
ちっちゃなイギリスを前に桃の形のあんまんをちらつかせながらそう言ってはしゃぐ可愛いモノ好きな中国。
その可愛らしい形に目が釘づけの小さなイギリスは、それでもチラリとスペインを伺う。
スペインが良いと言ったなら…と言わんばかりのその態度に、感無量。
言葉なく頬をゆるませるスペインの目の前で、黒髪の少年、香港がスイっと中国の持つ桃饅の入ったトレイを奪い取ると、
「大人げない爺は気にせず食べると良い的な?」
と、小さなイギリスに視線を合わせるようにしゃがみこむと、それを差し出した。
「香~、何するあるっ!」
「どうせやるんだから無駄な時間取ってもしかたないっしょ。時は金なりっすよ。」
アジア組がそんなやりとりをしている間、イギリスは小さな手に盆を抱えたまま戸惑ったようにまだスペインを見上げている。
「ええで。せっかくやから頂き?」
とスペインが言うと、イギリスはぱぁ~と顔を輝かせて、そこで初めて可愛らしい桃の形の饅頭を手に取った。
そんな中、
「桃太郎(勇者)の代わりに来たんすよね?」
と、まだわぁわぁ騒いでいる中国を放置で、香港は強引に話を進めようとスペインに切り出す。
そんな香港の態度にも慣れているのか、めげない中国は
「じゃあ仕方ないから本当は嫌あるが、アヘンはその間、我が預かってやるあるよ」
と、饅頭を頬張っている小さなイギリスに手を伸ばすが、スペインが慌ててイギリスを抱き上げ、香港はその手をピシっとはたいた。
「香、何するあるか~?!」
「それじゃ話進まないっすよ。
一応シナリオ的には王様んとこに現れた別世界の人間が勇者っつ~のが王道っしょ。
というわけで…」
と、涙目で抗議する中国にそう言ったあと、香港はどこからか取りだした紙とペンをスペインにつきつけた。
「これ、【勇者証明書】の発行ための書類っす。
これがあればいきなりモブん家突入してタンスの中漁ろうが、他人様の壺割って中身取り出そうが犯罪にならないっつ~、マジ神的便利な資格っす。
鬼が島とかマジ海の向こうなんで、これないと舟もげつできないんで…」
と、なにやら某国のゲームにすっかり毒されたような説明をし始める。
「とりあえず、王様は王様ってジョブついてるんで勇者にはなれないんで、そっちの某チビ紳士で登録よろ」
名義上のモノ…と説明を受けて、スペインがうながすとイギリスは小さな手に羽ペンを持って実に綺麗な流れるような字でサインをする。
「おっけ~。じゃ、そういう事でこれが証明書。目立つ所に。
あとは…フラッグ?一応桃太郎代理っつ~ことでトマトじゃなくて桃の絵が入ってるけど気にしない」
書類を確認後、香港は中央に【ゆうしゃ:あーさー】と書いた可愛らしいトマトの形のバッチをアーサーが着ているローブの胸元の大きなリボンの中央につけ、桃模様の幟旗をこちらはイギリスが持つには大きすぎると判断したのかスペインに手渡す。
「お~、超ゆうしゃっつ~感じっすねっ!」
と何故かあさっての方向を見ながら言う香港。
(勇者…てより、幼稚園の学芸会みたいやなぁ…)
と思いつつも、
「これが勇者バッチなのかっ」
と、目をキラキラさせている子どもの夢を壊してはいけないと、スペインは無言を貫いた。
「で?これであとは鬼が島へ行って鬼どついてくればええん?」
「そそ。今回は超スペシャルなサービスで俺も道案内兼説明役でついてくんでっ」
と、いきなり宣言する香港に、中国が
「ずるいあるっ!我も行くあるよっ!!」
と叫ぶが、
「長老が付いてくるなんて話聞いた事ないっすよ。
長老ってジョブは勇者に説明して路銀渡すために存在するジョブっすよ」
と、手を差し出されてまた涙目になる。
「あの…な、お土産ちゃんと買ってくるからな」
と、そこで桃饅を食べ終わった小さなイギリスがその場にへたり込んだ中国の肩をポンと叩いて慰めると、
「お前…本当にずっとそのまま可愛げのあるままでいると良いあへん」
と、そのピョンピョンと跳ねた金色の髪をなでて、中国は結局懐から財布を取りだした。
「じゃ、行ってくるなっ。とりあえず…これお礼…」
小さなイギリスはこれも日本が用意した可愛らしい肩掛けバッグの中から可愛らしくラッピングした袋を一つ中国の手に握らせて、長老の家をあとにした。
『結局いやがらせあるか~~!!!!』
3人が長老の家のある小高い丘を下り始めた頃、後ろから中国の叫び声がした…。
こうしてスペインと小さなイギリスはお供に香港を加えて鬼が島への道のりの第一歩を踏み出したのだった。
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