本に引きこまれたスペインと小さなイギリスが再度ぽぉぉん!と飛び出た先は、一面トマト模様の部屋だった。
スペインに抱っこされたまま、きゅうっとスペインの胸元をつかんでいたイギリスが恐る恐るといった風に目を開けると、スペインはイギリスを見下ろしてニッコリほほ笑んだ。
「今日からここが自分のおうちやで。」
にこにことそう話かけると、イギリスは一度ぱちくりとまばたきをしてスペインを見上げ、今さらな事を聞いてきた。
「あの…な、お前誰?」
そこでスペインは初めて自分がまだ名乗ってない事に気付いた。
これは自分の夢の中だから、自分は相手を知っていても相手は必ずしもそうじゃないと言う事なのか…。
とりあえず少なくともイギリスに関してはそうなのだろう。
そう認識してスペインはイギリスに自己紹介をする事にした。
「あのな、俺はアントーニョ。このトマト王国の王様やで~。」
トマト王国…そんな国があるのかは知らない。
が、これは自分の国で自分がイメージした部屋にたどりついたと言う事は、自分がそうと思えばそうなるのだろう。
小さなイギリスはこくんと不思議そうに首を傾け、
「…と~にょ?」
と、くるりんとカーブしたまつ毛に縁取られたまるい目でアントーニョに問いかける。
どうやらまだうまくアントーニョと言えないらしいが、そのたどたどしい口調も可愛らしく、スペインは思わず微笑んで、そのぷくぷくした薔薇色の頬に自分の頬をすりよせた。
「そやで~。とーにょって呼んだって。自分はアーサーでええやんな?」
そう言うと小さなイギリスはくすぐったかったのか、きゃらきゃら笑い声をたてながらコクコクとうなづく。
こんなに無防備に懐いてくれると、常にも増して愛情が募る。
スペインは根っからの親分なのだ。
自分を頼って甘えてこられると非常に弱い。
ましてやこの子どもは愛しい相手の幼い頃の姿なのだ。
こんな可愛い時分のイギリスと一緒に過ごせなかったとは、なんて今まで損をしていたのだろう…。
自然と顔に笑みが浮かんだままイギリスを見下ろすと、目があった瞬間、イギリスは一瞬ぱちくりと驚いたようにまばたきしたあと、ぽわっと赤くなってうつむいた。
どうやら照れ屋な性分はイギリスのままらしい。
「とーにょは王様なのに…お仕事しないで俺のところへ来ていて良かったのか?」
と、次にぼそぼそっと言う子どもらしくない言葉もなんとも仕事人間のイギリスらしかったが、そう思っておもわず噴き出してしまったスペインをみて、イギリスは
「ちゃんとお仕事しないと王様クビになっちゃうとおもって心配してやったのに」
と、ぷぅっとふくれた。
そして次の瞬間、ぴょおんとスペインの腕の中からベージュの絨毯の上に飛び降りたイギリスは、
「おれ…ちゃんとお留守番できるから…大丈夫だぞ?」
と言うと、スペインをみあげた。
笑顔を作ろうとしているらしいが、微妙に失敗して、少し泣きそうな顔になっているところを見ると、やはり心細いのだろう。
当たり前だ。いきなり知らない場所にきたのだ。
それでも相手の負担になる事を…それによって相手から疎んじられる事を極度に恐れ、不安を押し隠して相手の都合を考えようとするところが、やっぱりイギリスだ。
無邪気なようでいて、わがままを言う事ができない。
スペインはなんだかそんなところが可哀想で切なくて、その場にしゃがんで小さなイギリスをぎゅうっとまた抱きしめた。
いきなり抱きしめられてイギリスは驚いたように小さな身体を硬直させる。
こんなたわいもないスキンシップに慣れないところも本当にイギリスだ。
「子どもがそんな心配せえへんでもええんやで?
でもそやなぁ…せっかくそう言ってくれるなら、一緒におしごと場についてきてくれるか?親分一人は嫌やねん」
ここであくまで一緒に遊ぶことを主張してもかえって気を使わせるだけであろうと、スペインがそう提案すると、イギリスはちょっとホッとしたような顔で
「そうまで言うなら行ってやる…」
と、これもいかにもイギリスらしいセリフと共にうなづく。
「ほな、行こか~」
と、差し出すスペインの手をイギリスがぎゅっと握ると、スペインは部屋を出て、なんとなくこちらの方かとあたりをつけた方向へとむかった。
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