子どものための金の童話 第三章_1

その日の世界会議の会場はアメリカだった。
会議の内容なんていつも頭に入ってないが、今日は見事なまでに頭がシャットアウトしている。
スペインの頭にあるのは日本からもらった【子どものための金の童話】の事のみ。

イギリスと仲良くなれる起死回生のアイテムだ。

ああ…あの子供時代のイギリスを引き取ったのが自分やったら…と、何度思ったかしれやしない。
しかし悲しい事にスペインが初めて小さなイギリスを目にしたのは、すでにフランスがイギリスを支配し、自国に連れてきたあとだった。
そして、ひどい事を言ったりこき使ったりするわりにはイギリスに執着していたフランスは、なかなかスペインをイギリスに近づかせてはくれなかったのだ。

「ホント生意気だしチンチクリンだしさ…」
とフランスがそうイギリスを貶めるたび、それなら自分にくれと何度頼み込んだかわかりはしない。

あかぎれたあのまだ小さな手できゅうっと自分の服の裾をつかんで、緊張に耐えるように大きな丸い目でスペインを見上げてくる様子は痛々しくて、抱きあげて連れて帰りたい衝動に駆られる事も少なくはなかった。

その後一時的に良好になった国の関係も、上司が病で大変だったまだ小国のイギリスに、スペインの上司がスペインの代わりに当時すでに大国だったフランスと戦ってこいなどと言う無茶な事を言ったため、険悪になった。

そう、あの、イギリスがスペインの代理でフランスに大敗し、大陸に唯一所持していた領土を失ってしまった戦いがきっかけで、スペインはイギリスに嫌われたのだと思う。

しかし、あの時だってスペイン自身は上司を止めたのだ。
それはそれは必死に止めた。
それでも上司はイギリスに代理戦争の決行をうながした。

王である上司が是といえば、いくら国を体現しているスペインが否と言っても通らない…。

もしフランスより先に小さなイギリスを見つけて連れ帰り、慈しんで育てられたら…。
もし自分が王のように権限のある身であったなら…。

そんなもうどうしようもないIFをスペインは頭から消し去る事ができずに、早数百年を無為に過ごしてきたのだ。

だから
「この本の中では、一応ご自身がなりたい設定のものになれるのですが、いかがされますか?」
日本にそう問われた時、スペインは迷わず
「王様になりたいわ」
と答えた。

「自分の意志やないのに、あの子を傷つけたりせんといかんような立場やなくて、自分の権限であの子を傷つけたらあかんて言えるようになりたいねん」
そう付け加えると、日本は、なるほど、とうなづいた。

「それではこうしましょう。
好かれるように…と性格をいじる事はできませんが、おとぎの国の王様であるスペインさんが、普通のおうちのお子さんであるイギリスさんの部屋の絵本の中からイギリスさんを迎えに行きます。
もちろん、それだけでは面白くありませんから、スペインさんとほぼ同時にイギリスさんを連れていこうとする人物を二人ほど送りこみます。
子供のイギリスさんにとっては3人ともいきなり本の中から現れた知らない人物です。
そして…そこで誰についていくかの選択肢はイギリスさんに与えます。
スペインさんはまずそこで、他の二人に先んじてイギリスさんの信頼を得て、自分の本の中へとイギリスさんを連れ帰って下さい」

「なんやしょっぱなからエライ大変やなぁ…」
なにせ現実世界のイギリスに嫌われている自信はある。
夢の中だと言ってもそんなに簡単に信頼を勝ち取れるのだろうか…

そう危惧するスペインに日本はにっこり宣言した。

「大丈夫。子供に好かれる事に関してはスペインさんが一番得意そうですから」

それ以上は譲る気がなさそうな日本の様子にスペインは諦めて、素直に設定を済ませた本を持ち帰った。


その本は今スペインのカバンの中に大事にしまわれている。
会議が終わったら即ホテルに帰って例のおまじないをするつもりだ。
一晩だけの夢ならば、少しでも長い方がいい。

と言う事で…今日のスペインは本当に会議どころではないのである。



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