子どものための金の童話 第二章_1

「せめてフランスより先にみつけてかっさらってきとったらなぁ…きっと違っとったと思うんや。
なあんも知らんちっちゃい頃に怖いもんから守ったって可愛がったって…そしたらイギリスの事や、懐いてくれたと思わへん?
少なくともこんなに嫌われへんかったわ」

普段は静かな日本の家に、酔っ払いの泣きごとが響き渡る。

居間の立派な木のローテーブルの上には涼しげなガラスの徳利とグラス。

自分だけで飲む時は適当にスルメでもあぶってつまみにするところだが、今日は遠く欧州からの客人が3人もいるとあって、日本もつまみには力をいれた…が、主賓はその繊細な彩りにも味にもさして興味なさげに、こちらも上質の日本酒を水のように流し込み、早々に酔っぱらっている。

太陽の国…と称され、明るいイメージがあるスペインだが、飲みすぎるとどうやら泣き上戸になるらしい。

そして…唯一彼がそこまで酔い潰れるほどに飲む時に一緒にいる事になる弟分のロマーノに言わせると、彼の酒癖は、酒癖の悪さでは有名な、かのイングランドおよび北アイルランド連合王国…つまりイギリスのモノとよく似通っていると言う。
ようは…すぎてしまった時代の事を毎回愚痴るらしい。

その愚痴る内容と言うのが…つまりは文頭のような事で……


それを日本が知る事になったのは、夏コミの原稿でうんうん唸っていた時に、丁度運よく(悪く?)遊びに来た元師匠…プロイセンの口からポロリと漏れた一言からだった。

不機嫌まっさかりの日本のために、意外に世話好きのプロイセンは食事など作ってやりながら、一人楽しくヨーロッパの近況などつぶやいていたのだが、その言葉の端々に、何故かちらつく南イタリア…ロマーノの影。

1を聞いて10を知る日本でなければ、あるいは気付かなかったであろうその事実を、日本は修羅場で目の下に隈を作った状態で、プロイセンに確認した。
そう、尋ねたのではなく、確信を持った事実を確認したに過ぎない。
いわく…

「師匠…わかりました。
本来なら私のところにわざわざ惚気にくるなど言語道断、リア充爆発してしまえ!と言いたいところですが…幸い今は夏コミ前です。
米英ネタがそろそろ尽きて、その後始めた仏英ネタも尽きて今こうして唸ってるので…
今年の夏の新刊は普ロマで決まりですね!」

何か吹っ切れたような良い笑顔でそう言う日本に、プロイセンは青くなった。
長年の友達からようやく一歩前進、親友以上恋人未満くらいの微妙な距離のプロイセンの想い人は、非常にシャイなのである。

ここでそんな本を出された日には…

「日本…実はな…俺より新刊のネタに良い話が…」

恋のために悪友であるスペインを売ったというなかれ。
一応…スペインが1000年単位で片思いをしている相手は日本の親友なのだ。

協力してもらって、なんとかスペインが脱片思いをすればスペインは幸せに…。
そして、会議後に必ずと言っていいほどロマーノが元宗主国であるそのスペインに愚痴を聞かされるために酒を飲みに連れていかれる事もなくなり、自分も会議後一人楽しくしていなくても済むようになる。

ほら、みんなが幸せじゃねえか。そう思わねえか?ことりさん。

心の中でそう言い訳をしながら、プロイセンはロマーノが会議に出席している時は毎回ロマーノを連れて飲みに行くスペインの愚痴について、日本に話したのだった。


そして…
「西英キタコレェ~!!」

と、日本がまるで恐山のイタコのような奇声をあげた瞬間はプロイセンも早まったかと本気で後悔した。

が、夏コミのネタが出来て私は幸せ、親友である寂しがり屋なイギリスさんもすぐ側に恋人が出来て寂しくなくなって幸せに…。
ほら、皆が幸せじゃないですか!そう思いませんか?ポチ君っ!

…と、こちらも師弟だけあって親友をネタにする事にそう折り合いをつける事にしたらしい。
日本は快く協力を申し出た。

こうして実際に話をしてみたいと言う事で、渋るロマーノを説得。
スペインと共に日本宅で飲み会とあいなったのだ。





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