子どものための金の童話 第一章_2

ホテルにつくと、食事の時の日本の言葉通り、薔薇の花が届いている。
自分がこの話に絶対に乗ってくる事は日本にはすっかり見抜かれていたらしい。
他の国なら少し悔しく思うところだが、相手は日本だからまあいいか…とイギリスは納得する。
むしろ自分が思い悩んでいる事を察してさりげなく準備してくれていた日本の気遣いに感動すらした。

こうして部屋に帰って荷物を置くのもそこそこに、イギリスはいそいそとカバンの中から日本にもらった本とロウソクを取りだした。

言われた通りテーブルの上で金のロウソクを囲むように白い薔薇を並べ、本を手に取る。

『この本の中では何でも好きに行動して下さって結構です。
ただし一つだけ…ご自身を始めとして国の方々は決して国名で呼んではいけません。
イギリスさんは普段一般の方々がいるところで名乗っていらっしゃるようにアーサー、フランスさんならフランシス…そしてスペインさんならアントーニョといった具合に必ず人名をお使い下さいね。
もし間違って国名で呼んでしまったら大変な事になるので、くれぐれもお気を付け下さい』

少し気遣わしげに言う日本の顔が思い出された。
日本の言う“大変な事”が何かはわからないが、せっかくこんな素晴らしい物を用意してもらったのだ。
そのくらいは自分もきちんと気をつけよう…と思う。


薄暗い室内には月明かり。
テーブルの上には金の蝋燭とそれを囲むように白い薔薇。
その前に立つイギリスの手には【子どものための金の童話】

あえてわざわざ自分で取ったヨーロピアンスタイルのホテルのアンティークの時計がボ~ンボ~ンと時を告げる音に後押しされるように、イギリスは薔薇に囲まれた金の蝋燭に灯りをともし、分厚い金色の本の表紙を開く。

“時の縁(えにし)を断ち切って金の鎖をつなげたい”
イギリスがそう唱えると、金の本は光を放ちながらイギリスの手を離れ、パラパラとすごいスピードでページがめくられて行く。
それを呆然と見ているイギリスの体はいつのまにか宙に浮き、光の中へと吸い込まれていった。


まばゆい光に目を開けていられずぎゅうっと目をつぶったまま、まるでジェットコースターにでも乗っているようにすごい勢いで落ちたり登ったりする感覚に身をゆだねる。

揺られ過ぎてクラクラと半分飛んだ意識が、ようやく足が地面についた感覚を拾った。
そこでおそるおそる目を開けると、そこはおとぎの国…と言うには少々現代的すぎる子供部屋。
ただそこでこれは現実じゃないんだなと思うのは、自分の視点がやけに低い事。
出会った頃のアメリカよりは若干大きいくらい…だろうか。

床の上には子供らしく絵本が3冊ほど。

まだ自分の状況すらよく把握できていないイギリスの前で、今度はその3冊の本のページがいきなりパラパラと自然に開き、ほぼ同時に開いた状態で止まると、ぴょおん!と1冊から1人ずつ、3冊で3人の人影が飛び出してきた。



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