愛情生活
かなり衰弱していたイングランドの様態は一進一退を繰り返しながら、それでも1週間ほどで危険な状態を脱して2週間で起き上がれるようになった。
元々細かった身体は更に一回り細くなってスペインをひどく心配させたが、それでもその2週間が2人の間を急速に近づけた事もあって、他者の目にどう映ろうと、2人は確かに幸せだった。
イングランドが倒れた時の約束通り、スペインは黄金の指輪を用意してイングランドに贈った。
スペイン的には石のついたもっととびきり高価な物を贈りたかったのだが、イングランドがそれが良いと言い張った。
目立つ物だともし国情が変わって堂々と付けられなくなった時に隠して身に付ける事が出来ないから…という、悲観主義者の彼ならではの悲しい理屈によるものだというのは、当然知らなかった。
それでもスペインがお揃いの指輪を用意して、神父が留守にしている小さな小さな教会で2人きりで愛を誓い合う。
「俺…何もあげられるものがないけど……」
と、その時イングランドは随分昔に手に入れたシンプルな十字架のペンダントをスペインに差し出した。
「記念に…机の奥にでもしまっておいてくれ…」
それはイングランドの唯一の私物と言える物だったが、天下の覇権国家がつけるには飾りもなくあまりにシンプルな物だった。
だからそう言ったのだが、スペインは何より高価な宝石でも手にした時のようにとても嬉しそうな顔をして、
「可愛え嫁さんからの初めての贈り物や。嬉しいわぁ。
なあ、自分がかけたって?」
と、頭を下げて、その後に悲しい思い出に変わる大切な品をイングランドの手から首にかけさせた。
まだ幼く弱いイングランドを思いやって、夫婦の営みこそなかったものの、2人は日々一緒にすごした。
大国ではあるものの、スペインは案外単純な男で、それがイングランドを安心させた。
ある日の朝、花が好きなイングランドに花を取ってくると言い置いて出かけたまま、夕方になるまでスペインが帰って来ないことがあって、もう飽きられたのか…と、涙に暮れるイングランドに館に帰ったスペインが差し出した一輪の花…ひまわり。
――これがいっちゃん大きかったんやっ。
グイっとたった一本の大きな花を差し出して自慢げに笑うスペインに、イングランドも嬉しくなって笑った。
ああ…この男はパンのように単純で、裏読みをする必要などないのだ…。
この男といれば幸せになれる…。
その後、スペインの王女が嫁いだ皇太子が亡くなり、その弟と再婚し、そして更に王となったその男が跡とりにできる男児を産まない王女と離婚しただけでなくカトリックを離脱して新宗教を立ち上げるなど、国としては決して良い状態ばかりではなかったが、スペインは館の奥深くにイングランドを住まわせたまま、幸せな夫婦生活を続けたのだ。
その後、スペインの王女が生んだ王女がイングランドの新女王に即位すると、その女王とスペインの王が結婚する事になった。
一見好転した両国の関係だが、それが悲劇の始まりだと言う事を、この時の2人は想像もしていなかった。
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