太陽の国の花婿
ちらりと王に視線を向けて、その後、現状を見ないように目を伏せていたが、そこに自分と同じ存在がいるのは薄々感じていた。
しかしどういう存在であるのか…ということには一切興味がなかった。
この世に存在するもので本当に自分の味方である者など存在はしないし、男がどういう容姿でどういう性格であれ、自分は相手の持ち物になるという運命に抗えるものではないのだから。
何も考えずに何も感じずに、ただ少しでも周りを刺激しないように、大丈夫、大丈夫…と、唱えながらやり過ごしてきたイングランドだったが、その声の主――スペイン帝国は、まるでイングランドをかばうように王とイングランドの間に立った。
肩を抱く大きな手に引き寄せられて、もう片方の手でヴェールをつかんだまま硬直していた手を降ろされる。
降ろされた手と共にパサリと落ちるヴェール。
それに視界が遮られる寸前にイングランドの目に入ったのは、鮮やかな光を背負って立つ、男の横顔。
日に焼けた褐色の肌、黒い衣装に身を包んだ意外に細身だがしっかりと筋肉のついた体躯。
貴族然としたフランスとは対照的に今でも最前線に立って戦っているらしいその男は整った精悍な顔をしていた。
これが世界の覇権国家…スペイン王国……輝ける国……
何がきっかけなのか自分でもわからない。
ポロリと涙腺が決壊した。
必死に嗚咽を堪えていると、表では王と軽口を叩き合っている男はイングランドの肩に置いた手で軽くポンポンと宥めるように叩く。
それでますます止まらなくなった涙に焦っていたイングランドは、急にヒョイッと自分の身体が宙に浮いたのに気付いて、身をすくめた。
スペインに横抱きに抱え上げられたのだと気づくと、さらに硬直した。
――すぐ城出るから、もうちょい我慢しとき。
執務室を出て大股に歩きながら男が言う。
外に出て馬車も待たずにイングランドを片手に抱えたまま馬に飛び乗る。
大した筋力だ…と、感心する間もなく走りだす馬。
強い日差しの中、馬車と違って屋根もない状態で飛び出した外は、何故か先ほどと違い、不快感を感じなかった。
この国に愛されたこの国の化身と共にいるせいかもしれない…。
この腕の中から出れば、また容赦の無い日差しの不快感が襲ってくるように思われて、イングランドがギュッと抱え込まれた男のシャツの胸元を掴むと、
「なんや、馬怖いんか?親分がこうして支えとるから大丈夫やで?」
と、頭上で高らかに笑う声がした。
これが不幸な花嫁と太陽の花婿の出会いだった。
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