プロローグ
――Key…鍵…
それと宝箱らしき小箱が目の前にあれば、開ける開けないは人によるが、誰しも好奇心はそそられるだろう…。
家主の留守中に頼まれた古いワイングラスを探して倉庫に入った蜂蜜色の髪に深い海の色の瞳を持つこの男は、目当てのモノを無事見つけたついでに、なんとなく…本当になにげなく、家主の倉庫を物色してみた。
家主の数百年来の腐れ縁であるこの男は、家主とはそれをしても気にされないくらいのつきあいだ。
そもそもこの倉庫は昔のモノが無造作に放り込んであるだけの場所のはずだった。
そこには、長い時を生きる彼らからすればついこの前、家主が可愛がって育てた子ども達の洋服、おもちゃから始まって、海賊…と呼ばれた頃の名残のピアスに数枚のコイン、なんとはるか昔、自分がやったひらひらと風に舞う上等のチュニックまで、かなり丁寧に綺麗な状態で保管されていた。
その部屋はさながら家主だけでなく、家主と長い歴史を共にしてきた腐れ縁の男にとっても懐かしい歴史の宝箱のようだった。
ああ…色々が懐かしい…と、夢中で倉庫の中の歴史のかけらをたどるうち、男はふと倉庫の本当に片隅で埃をかぶったまま無造作に置かれた小箱を見つけた。
小さな小さな黄金の小箱の横には意味ありげなペリドットの飾りのついた金のカギ。
それは家主の髪と瞳の色で、それ自体がなんとなく家主を連想させる。
――なんか…面白いね!
価値のあるであろうそれを手に取ることに躊躇はなかった。
別に盗ろうと言うわけではない。
歴史探索の一環だ。
――見たあとにソっとまた戻しておけばいいよね。
と、男はその小箱のカギも手に取った。
カチャリ…とそれは小箱の鍵穴にぴったりとはまる。
さあ、高価な宝石が入っているのか、大事な思い出の品か…
そう思って男が楽しみに鍵の開いた小箱の蓋をソっと開けた途端、中からは何かキラキラした光が飛び出して……宙へと消えていった。
――何、あれ?
ぽかんとそれを見送る男。
その後、小箱に視線を戻すが、そこには何も入っていない。
男は首をかしげた。
そして小箱にまた鍵をかけて、元あった場所に戻す。
男は知らない。
男が鍵を開けた瞬間、宝物はすでに持ち主へと戻っていった。
だから小箱に再び鍵をかける必要は全く無いということを…。
そして…その宝物が、2人の人間にとって、非常に重要な意味を持つものであったということも…。
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