まさに太陽のような、と称するに相応しい、明るい満面の笑み。
――無理したらあかんよ?全部親分がやったるから、大人しゅうしとき。
と、毎食自らの手で食事を食べさせたがる過保護っぷりも本当に久々だ。
覇権国家で大勢の使用人を抱えていたあの頃ですら、イングランドが体調を崩すとスペインは全て自らの手で世話をしたがった。
自国では体調を崩しても廊下に食事のワゴンを取りに行くような生活だったのに、スペインと過ごすようになってからは、ベッドに半身を起こしただけで、ベッド脇に止めたワゴンの上に並んだ食事をスペインの手で食べさせられる生活に変わった。
まるで子どもにするように、体調が悪い時でなくても風呂ではスペインが頭を洗って乾かしてくれたし、寝る時もおやすみのハグとキス。
そしてスペインの腕を枕に、ポンポンとなだめるように背を軽く叩かれるのが常だった。
最初は慣れなかったその距離も、最後は一人になると妙に寒さを感じて眠りが浅くなるほどに。
あれは、戦いと迫害、離反と裏切りに満ちた国の人生の中で、唯一と言っていいほど安らぎに満ちた優しい時間だった。
――イングラテラはもう親分の可愛え嫁さんやからな。親分が守ったるから、なあんも心配せんでええんやで?
たまに兄達に弓を射掛けられたりフランスに攻めて来られたりした頃の夢を見て泣きながら目をさますと、スペインは必ずそう言って、
――悪い夢みぃひんおまじないしたるわ。せやけど、これしたら目ぇあけたらあかんで?おまじないがとけてまうからな?
と、閉じた両目のまぶたにキスをしてくれて、そうされると本当に安心出来てぐっすり眠れたりしたのだ。
そんなあの頃の日常が久々に繰り広げられている。
優しく優しく真綿でくるむような扱いが、くすぐったくも心地良い。
元から細かいフランスと違って、元々は武器を振り回したり鍬を持つ、無骨で、やや不器用な手が、精一杯の優しさで触れてくるのが温かい。
スペインに包まれていると、本当にずっと愛情に飢え乾いていたのが、嘘のように満たされていく。
ああ…幸せだ…と、思った。
なのに悲しい気持ちがふいに湧いてくる。
だって幸せには必ず終わりがある…それをイギリスは知っているのだから。
最初はただ幸せだった。
でも1週間の半分を過ぎた頃…不安と悲しみが押し寄せて来始める。
幸せな分だけ終わりが辛い。
二度と来ないこの幸せな時間が終わるまであと3日…2日…1日…
心臓がバクバクする。
笑顔で…幸せに終わらなければスペインの負い目を払拭出来ない…。
それは絶対にダメだ。
そう思うのに、日がたつにつれて恐怖心が抑えられなくなってくる。
「アーティ、ほんまどないしたん?
このところ食欲もないし、顔色も悪いで?」
と、とうとうスペインに心配されるほどになってきた。
なんでもないのだ、気にしないで、元気だから…と、伝えようと笑みを浮かべて首を横に振る。
しかしきちんと笑えてなかったのか、スペインはぎゅうっとイギリスを抱き込んで、頭に顎をのっけながら言うのだ。
「なあ…無理して笑わんといて?こんなに震えとるのに…。
何が怖いん?何が辛いん?親分に教えたって?
親分な、アーティ守れるならなんだってしたるよ?」
スペインは優しい…。
本当に優しい…。
500年前の自分には……。
でも現代のイギリスには………
ああ、無理だ。
一度この温かさを思い出してしまったら、なくすなんて耐えられない。
そのくらいなら……
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