本田菊の策略_8

イギリスの動揺と葛藤…そして決意


うん…何が起こってる?
目がさめるとスペインがいた。
実に久々に…正確にはおそらく500年ぶりくらいに見る、自分に対して怒っていないスペインが……。

『今度こそは親分が絶対に守ったるからな…』

半覚醒でその言葉が耳に入ってきた時には、夢なのかと思った。
自分を嫌っているスペインが自分を守るなんて事を言うはずもない。

いや、自分から誰かを守るとかそういう事なのだろうか?
そんなことを思いながら目を開けると、まるで500年前、自分が体調を崩して寝こむたび見せていたような気遣わしげな表情で自分の顔を覗きこんでいるエメラルドグリーンの瞳が目に飛び込んでくる。

そこからはポツリポツリと涙の粒が止めどもなくこぼれ落ち、あまつさえ、

――痛い思い、怖い思い…悲しい思い…何より心細い思いさせて堪忍な…。

などと謝られている。

一体何が起こった?
痛いと言えば確かに肩が痛い。
しかしスペインに怪我をさせられるようなやりとりがあったという記憶はない。

よくわからない…それでもそんな悲しそうに泣いて欲しくなくて、泣くな…と声をかけて思わず涙が止まらない目元に手を伸ばして涙を拭うが、その光景に違和感がある。

まず、確かに言葉をかけたはずなのに、声が出ていない。

そしてもう一つ……。
手が…自分の手じゃない?!
いや…そうじゃない。
正確には今の自分の手ではないというのが正しい。
まるで昔の…スペインとまだ親密だった幼い頃のような………

――あ…っ……

そこでようやく記憶がつながった。

今日の会議後、スペインを怒らせて、怒ったスペインの言葉を聞いて逃げ出したエレベータの中で、昔の自分の姿で声を出さなければ揉めないのか…などと、半分寝ぼけた頭で思ったまでは覚えている。

――もしかして…俺やらかしちまったのか…


イギリスは頭を抱えたくなった。

おそらく今の自分の姿は500年前。
スペインとの関係が破綻するぎりぎりの頃。
この痛みは確か代理戦争でカレーを失った時の痛みだ。

うあああ~~と思う。
よりによって嫌味ったらしく、その時期にしなくても…。
まるでスペインを責めているようじゃないか。
これ以上関係悪くしてどうすんだ、自分!!
一瞬そう思ったが、それにしてはスペインは気分を害している感じもない。
それどころか、ひどく責任を感じて落ち込んでいるようにすら見える。

あの頃は見舞いの品は届くものの、それまで足しげく通ってきていたのがぷっつりと足が遠のいたスペインに、フランスごときに遅れを取って失望されて見放されたのかと思っていたが、今のこの態度を見る限り、そういうわけではなかったらしい。

今と違って自由に出来る時間も少なければ、移動にも多大な時間とお金がかかった時代だ。
おそらくスペインも国内のゴタゴタで本当に来たくてもこれなかったのだろう。

どうやら自分があの時代から来たか、心身ともにあの時代に戻っていると思っているらしいスペインは、本当に怪我をしているイギリスより、自分の方がよほど辛そうだ。

ああ、そういう奴だったよな…。
イギリスが海賊を使って裏切ったと知った時ですら、イギリス自身には飽くまで剣をむけなかったくらい優しい男だった。

戦いに負けたからなんて言う理由で見放すなんてありえないだろう。

そんな男に嫌われるなんて、自分も大概だと思う。
もうあの優しい時間は取り戻せないけれど、せめて自分の自由に出来る範囲で、感謝の気持ちくらい送ってもバチは当たらないだろう。

現代の自分と別物と思っていて、おそらく自分のせいで怪我をさせたのだとあの頃のイングランドに負い目を持っているなら、その負い目をなくしてやりたい。

会いに来れなかった事が気にかかっているなら、今その分を一緒に過ごして過去を精算させてやろう。

それはすなわち、スペインの中で完全にイングランドへの執着を消す事になるのかもしれないが…こんな悲しい顔をするくらい辛い思いを抱え続けられるより、ずっといいじゃないか…。

魔法が切れるのは1週間後。

それまであの優しい関係をなぞって過ごすのも悪いことじゃない…。



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