本田菊の策略_3

そしてようやく会議終了日。
これでやっとあの子が休める。

たぶん仲良しの日本ちゃんのとこやし、このあと二人でゆっくり温泉でも行くんやろなぁ…。
ええなぁ…親分も行きたいなぁ…。
昔みたいにあの子の髪洗うて、乾かしてやって、ええ匂いするあの子抱きしめて寝たいなぁ…。

そんなことを考えつつ、ため息をつく。

あの子に愛想を尽かされて早500年強。
奇跡でも起こらない限り、そんな機会は訪れるはずもない。

せめてあの子のそんな幸せタイムを邪魔するやつが出ないよう、チェックは入れておいた。

まずブラコン大国の某メタボはどうやらこの後仕事で上司に即帰国するようにせっつかれているらしいので、安心だ。

自分も~などと言い出しそうなフランスは仕方ないので自分が拉致。

今回は体調悪そうなあの子を心配しすぎて自分も疲れている。
万が一酒が過ぎて潰れてしまってフランスが途中であちらに合流などという事にならないよう、フランス拉致要員としてプロイセンも確保する。

こうして準備万端、会議終了を迎えて大方の国が退出後、万が一にも逃げられないように…と、フランスを迎えに足を運んだスペインは、目の前で繰り広げられている光景に思わず凍りついた。


どうやら何故かあの子に食事に誘われたらしいフランスが、にやけた顔で今日は先約があるから明日家に来いとかふざけた発言をしている。

何贅沢言っとるん?このクソひげっ!!
調子のっとるんちゃう?!
天使が…俺の天使がせっかく誘ってくれてるんやでっ?!
そこは例え首相との約束があろうと、国の存亡に関わる危機以外なら喜んで受けるんが普通ちゃうかっ?!!
しかもあの子の方から後日来い?!
自分何様やっ?!
俺やったら絶対に断らんのにっ!!
例え国王との約束があろうとすっぽかしてでも喜んで行くでっ?!
その上で丁重にそのまま自宅へお招きコースやっ!
ああ、腹立つわっ!
めっちゃムカつくッ!!
あのヒゲ全部むしるだけや足らんっ!!
盛大に怒りのオーラをまき散らしながらその場で拳を握りしめて震えるスペインに、プロイセンが何事か?!と驚いて駆け寄ってきた。

そのどちらにも気づかず、フランスとイギリスのやりとりは続く。


『どうしても…だめか?』
と、辛そうな赤い目でフランスを見るイギリスに、スペインの中の庇護欲がきゅんきゅん刺激される。


あんなクソひげに頼らなあかんくらい体調悪いんやな…。
可哀想に…なんで誰も気づいて気遣ってやらんねんっ!!
ああ、もうあんな具合悪そうなあの子をいつまで立たせておくんやっ!!
はよう支えてやって部屋連れて行って寝かせてやらな、倒れてまうやろっ!
ほんま気ぃきかんやっちゃなっ!!!
やっぱりあのクソひげ、あとでフルボッコやっ!!!
イライライライラ

確かにせっかくの誘いに乗らないフランスにイライラしてたはずだ…そのはずなのに……


『仕方ないね。いいよ。ちょっと断ってくるから待ってて。』

と妙に甘ったるい声でそう言って、あろうことか、スペインですらもう500年以上も触れる事が叶わなかった、あの可愛らしい金色の頭に手をおいたところで、スペインの中で何かがブチ切れた。


「…自分何様なん?甘ったれた声出して、何、その手?昔の可愛らしい容姿の頃ならとにかく、成人とうに越えたおっさんがキモいわっ。自分なんかドーヴァーに沈んでまえっ!海の泡になって消えてまえっ!!とにかくその手ぇ離しっ!」


気づいたらそう言ってフランスを殴っていた。
あの少女のように可愛らしかった若かりし頃のフランスならまだ許せた。
中身を考えなければまだ許せたのだが、今のヒゲを生やした成人男が気味の悪い甘ったるい声で自分の可愛い可愛い天使に声をかけて手を触れるなんて、犯罪臭しかしない。

「ちょ、スペインっ!何よっ?!いきなりっ!!」

殴り飛ばされて壁に激突。
なおもそれを追いかけてくるスペインにあわてて逃げるフランス。

「うっさいわっ!!自分調子に乗り過ぎやっ!」

ああ、羨ましい、妬ましいっ!!
自分だって可愛らしいあの固そうな見た目に反してふわふわの髪を撫で回したいっ!!
あの子を抱きしめて甘やかして、家に招いて、自分の美味しいお菓子も料理もふるまってやりたいっ!
それが全部当たり前に許されているフランスが我慢出来ないくらい腹立たしい。

あの子は確かに昔は自分の…自分だけの恋人だったのにっ!!
この3日間、心配しすぎて色々限界で、精神的にもかなり来ていて、頭のなかはグチャグチャで、感情の抑えがきかない。

「なんであの子にさっさと休むように言ってやらんねんっ!!
この3日間、体調めっちゃ悪そうやったやんっ!!
めちゃ無理しとったやんっ!!
言うて聞いてもらえる立場の自分が言わんで誰があの子守ってやるんっ?!!
あの子過労死さす気かっ?!!」

逃げるフランスの襟首を捕まえて、そう叫んで振り上げたスペインの拳は、腕をつかむ手に遮られて止まった。

「…ぷーちゃん…。邪魔すんなら自分も殺るで?」

すっかり据わった目で後ろを振り返るスペイン。
すっかり元ヤン時代…もとい、帝国時代に戻ったかのようなそれに臆することもなく、プロイセンは肩をすくめた。

「俺殺んのは良いけど…イギリス一人で部屋に戻ってったぞ?
そこまで心配なら自分で追った方がいいんじゃね?」

チラリと出口に視線を向けて、プロイセンはまた視線をスペインに戻す。

「…せやけど……親分あの子に嫌われてるさかい…」

淡々と言うプロイセンに、怒りもすっとんで、力なく頭を垂れるスペインに、プロイセンは小さく息を吐き出した。

「今回はフランスは悪くねえぞ?お前のそれは八つ当たりだ。
自分は嫌な思いしたくねえからって静観しといて、他の奴に言わせるってのは卑怯だ。
どうしても休んで欲しいなら、自分で言え。
例え嫌な顔されても、土下座して頼み込んででも、まず自分が動けよ。
それが筋ってもんだ。」

極々静かな口調で苦言を呈すプロイセンの言葉に、スペインはフランスから手を離して、少し離れた所で我関せずと言った感じに後片付けをしていた日本にイギリスの部屋を聞くと、ホールを飛び出していった。



「にほ~ん…お兄さん殺されるとこだったんですけど?」


完全に扉が閉まった瞬間、フランスが情けない顔で日本を振り返る。
ああ、やっぱり黒幕は…と、プロイセンもため息…。

あれだけ挙動不審なイギリスに、イギリスと仲が良く、細やかで気がつく日本が何もフォローを入れない事自体がおかしいと思ったのだ。

そんな二人の視線を受けて、日本はにこりと微笑んだ。

「国家に関わる事でなければ好きな物を下さるとおっしゃったのはフランスさんですよ?」

「それはそうだけどさぁ…」

「私は大切な親友の幸せと春コミのネタ、一石二鳥が欲しかっただけです。
フランスさんいわく、スペインさんの方も片思い中らしいですし?
両片思いも萌えますが、やっぱり最後はハピエンで締めたいので。」

「お兄さんの人権は?」

「幼なじみと弟分の幸せと、友人のバースディプレゼント、一石二鳥どころか一石三鳥じゃないですか。良かったですね」

良い笑顔で微笑む日本。
ああ、もうオタ活動が関わった時の日本にはホント敵う気がしない…。
もういいか、なんとか色々無事終わるみたいだし…

これで毎度毎度、飲みにいくたび、嫉妬にかられたスペインに絡まれる事もなくなるだろうし、お兄さん的にもめでたしめでたしな気がするし、まいっかぁ…。

怒る気も反論する気もせず、プロイセンに助け起こされ、よっこらしょと立ち上がるフランス。

しかしそこで簡単にハッピーエンドになんかさせてくれない、弟分の複雑な性格について、フランスはこの時すっかり忘れ果ててたのだった。




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