秘密のランチな関係前編_4

プロイセンの家につくと一旦荷物を置き、プロイセンはキッチンに。
程よく筋肉のついたスラっとした長身にシンプルな黒いエプロンをつけ、いかにも手慣れてますと言った感じでテキパキと茶の準備をする。

「おい、イギリス。お前スパイスのたぐいは平気だよな?」
と、食器棚からマグカップを出しながら聞いてくるのに、
「ああ。特に苦手な物はないけど?」
と答えると、やがて出されたのはミルクティ。

「普通の紅茶はお前にいれてもらった方が美味いからな。チャイだ。
俺は甘いのそこまで得意じゃねえからそのままでお前はたっぷりの蜂蜜入りな。
温まるからまあ飲んでおけ。」
と言われて口に含むと、ミルクと甘みに混じって芳しい香辛料の味。

プロイセンはそんなことを言っている間にも、自分はマグカップ片手に鼻歌まじりに鍋のような物にアルミを引いて、その上に大袋の中から木くずをガシッと大雑把な感じで掴んで入れた。
その後、網をセットし、その上に冷蔵庫から取り出した何やらスパイスに漬け込んで置いたらしいブロックの豚肉を置くと蓋をして火をいれる。

「あの……」
「ん~?」
そうしている間にも冷蔵庫から色々取り出していくプロイセンに、イギリスは聞いてみた。

「なにしてるんだ?」

そこでプロイセンは少し考えて、
「ああ、これのことか?」
と、さきほどの鍋にチラリと目を落とす。

「見ての通りベーコン作ってる。
ほら、俺様自宅警備員だけど自宅外でもルッツの警備員…もとい補佐してっからよ。
平日は凝った事出来ねえんだ。
でもルッツにきちんとしたもん食わせてやらねえとだし、色々作りおいておけば便利だから毎週いろんなもん作って冷凍しておいてる。
で、こいつはな、安い時に買いだめた豚バラブロックを数日スパイスに漬け込んで置いておいて桜チップで燻すんだ。
焼いて良し、スープにいれて良し、パスタソースに混ぜて良しの優れもんだぞ」

「ちょっ…」

可愛い女性ならとにかく、自分相手に見栄を張っても仕方ないだろうから、これはプロイセンのスタンダードなのだろうが…なんなんだ、この料理の…いや、生活の達人っぷりは。

料理をすると言えばフランスもするのだが、やつの場合は時間がなければ仕事の時間の方を削って趣味の料理に没頭しかねない。

このプロイセンの、日常の空いている時間を上手に使ってというのが、出来る男という感じがしてカッコいいな…と、口には決して出さないがイギリスは心の中でのみそう思った。


「昨日は豚バラ特売日だったから大量買いしたんだよな。
てわけでこれから下準備なんだが、お前も手伝うか?」

「い、いいのかっ!」

いつも料理下手だからと他の相手にはキッチンに入るのを必死に止められるので、こんな風に当たり前に一緒に料理をと誘われるなんて初めてだ。

わくわくした気分で立ち上がって手を洗うと、プロイセンはエプロンを投げてよこした。

イギリスがそれを身につけると、プロイセンはテーブルにビニールの入った箱とスパイスを並べた。

「オールスパイス、シナモン、ナツメグ、パプリカ、塩、砂糖、ローレルな。
これは見たとおり普通にスーパーで売ってるし、日持ちすっから常に置いてる。
味なんてどうせ気温や漬け込みで変わるからな。
まあ適当に…塩とパプリカはティースプーン1杯。ローレルは1、2枚。あとはティースプーン半分。
肉は3ブロックあるから、ビニール3枚出してそれぞれ入れとけ。」

「…適当に…か?」

「おうよっ。ない時はこれだけだし、他で使って余ってる時は他にも色々いれっけどな。
日常の料理なんて日々余ったモン使いまわしたりとか、そんなもんだろ。
ただ、擦りきれとかじゃないだけで、1杯のところを2杯とかにはすんなよ
適当にサクッと一杯な?」

口では呑気に、しかし手はまるで魔法のように素早く華麗に動かしながら、プロイセンはニカっと笑った。

フランスのようにいかにも作ってますと言う感じではなく、飽くまで日常の家事の一環と言う感じで鼻につくことがない。
でも元の顔立ちが端正なこの男が黒いシンプルなエプロン姿で料理するのはとても絵になると思う。
男らしく大雑把に見せながらポイントポイントは丁寧に、手慣れた様子で調理する図は、女だったら絶対にときめくだろう。

イケメンでしっかりしていて面白くて羽目をはずしているようでいて、生活の中で困るレベルの事はせず、頼もしくて、面倒見が良い。

これ、理想の父親だよなぁ…こんな奴に育てられたら楽しいだろうなぁ、プロイセンの娘に生まれたらなんだか幸せそうだと、そんな斜め上の妄想に浸りながら、3枚のビニール袋に言われた通りスパイスを入れ終わると、目の前にドン!と大きなまな板が置かれる。
そしてその横には皿に入った3つの豚バラブロック。

「おし、ちゃんと入れ終わったな、良い子だ。」
と、ビニールを確認後、エプロンで濡れた手を拭いて、プロイセンがわしゃわしゃと頭を撫でてくれるのがなんだかくすぐったい。

年長者である兄達には矢を射かけられた事しかなく、フランスには馬鹿にされた事しかない。
だから出来たことをこんな風に褒めてもらうのは初めてで、なんだかほわほわと温かい気分になった。

「じゃ、次は味が良く染みこむようにまな板の上で肉をフォークで適当に刺す。
で、刺し終わったらさっきのスパイス入りのビニールに放り込んで全体にスパイスをまぶす。で、全体に付いたようなら少し揉み込むようにな。」

と、それだけ指示すると戻っていく。

料理が得意ではないイギリスでも普通に出来て、しかもちゃんと手伝った達成感が得られそうな事を用意しつつ、自分は自分の作業をきちんと進めていくって、どんだけ面倒見慣れてるんだ…と感心を通り越して呆れ返る。

それでもまた褒めて欲しくて、あの大きな手で頭をクシャクシャと撫でて欲しくて、イギリスは真剣な顔つきで豚バラブロックにフォークを突き刺すのに没頭した。



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と言う事で…ベーコンの作成に興味のある方は
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